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少し整える
――帝国暦三二〇年・冬中頃 帝都・庁舎内 個室――夕方。
窓の外は、白く霞んでいる。
部屋の中は静かだった。
イリスは書類を閉じる。
「……少し、騒がしかったようですね」
柔らかく言う。
向かいに、レオンがいる。
「いつも通りだ」
短い。
イリスは小さく笑う。
「そうでしょうか」
「“お兄様”と呼ばれているのを見ました」
さらりと。
レオンは否定しない。
「昔からだ」
それだけ。
イリスは少しだけ視線を落とす。
そして、顔を上げる。
「……今回だけは」
静かに。
「少し、お節介をさせてください」
一瞬だけ、空気が変わる。
レオンは何も言わない。
視線だけが向く。
「同じ空間ですと、判断が混線します」
穏やかに言う。
「役割が、重なりすぎています」
「少し、整理された方がよろしいかと」
静かに。
レオンは考えない。
「……分けるか」
短く、それだけだった。
イリスはわずかに微笑む。
「ええ」
「それで十分かと」
穏やかに言う。
窓の外を見る。
白い空気。
「空気も、少しは整います」
誰にでもなく。
レオンは書類に目を落とす。
何も言わない。
ただ。
紙をめくる音だけが、響いた。




