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やめたい騎士団長は、なぜか昇進し続ける  作者: サザルト
第一章 やめたい騎士団長の日々
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なんか話が違う気がする件

――帝国暦三二〇年・冬初め 第七騎士団 本庁・執務室――朝。


 いつも通りの空気の、はずだった。

「で?」

 クリスが机に肘をつく。

「なんで“お兄様”なんだよ」

 率直だった。

 メリエラは書類から目を上げない。

「昔からです」

 短く。

 それだけ。


 クリスが顔をしかめる。

「いや説明になってねえ」

 少し身を乗り出す。

「ちゃんと教えろよ」


 メリエラが視線を向ける。

 一瞬、表情が消える。

「必要ありません」

 冷たく。

 クリスが止まる。

「……いや急に冷たくない?」

 ぼそり。


 メリエラは視線を外す。

 もう相手にしていない。

 ダリオが笑う。

「分かりやすいな」

 軽く言う。


 ミナがくすりと笑う。

「差、露骨すぎる」


 空気が妙な方向に傾く。

 リリアが顔を上げる。

「……どういうことでしょうか?」

 真面目に聞く。


 全員が少しだけ黙る。

 クリスが視線を逸らす。

「いや、その……」

 言いにくそうにする。

 ダリオが肩をすくめる。


「気にすんな」

 軽く流す。

 リリアは納得していない。

「ですが」


「お兄様、とは」

 真剣だった。

 ミナが笑いをこらえる。

「そのままの意味じゃない?」

 曖昧に言う。

「そのまま、とは」

 さらに踏み込む。


 クリスが耐えきれずに吹き出す。

「いやもうそれ以上聞くな」

 リリアが固まる。


「……?」

 分からないまま。

 エリシアが口を開く。

「メリエラ」

 静かに呼ぶ。

 一瞬で空気が締まる。


「職務中は、呼称を改めなさい」

 淡々と。


 メリエラが視線を向ける。

「……問題ありません」

 にこやかに。

「お兄様はお兄様ですので」

 そのまま言う。

 クリスが吹き出す。


「いやダメだろ」

 ダリオが肩を震わせる。

 ミナが顔を伏せる。

 エリシアは表情を変えない。

「団長と呼びなさい」

 短く強く。


 メリエラがわずかに眉を寄せる。

「ですが」

「規律です」

 重ねる。


 空気が止まる。

 メリエラは黙る。

 少しだけ考える。


「……承知しました」

 小さく視線を落とす。

 そして。

「団長」

 言い直す。


 空気が緩む。

 クリスがぼそりと言う。

「今のちょっと負けたな」

 ダリオが頷く。

「珍しいな」

 ミナが笑う。

「でもちゃんと従うのね」

 メリエラは何も言わない。


 すぐに書類に戻る。

 リリアが小さく頷く。

「……はい」

 何に対してか分からないまま。


 メリエラは書類を整える。

 ふと、顔を上げる。

 にこやかに。

「……団長は、まだ戻られていませんか?」


 クリスが吹き出す。

「順応早いな!」

 ダリオが笑う。

 ミナが肩を震わせる。


 エリシアは静かに答える。

「本日は外出されています」

「そうですか」

 メリエラは頷く。

 にこやかなまま。

 それ以上は言わない。


 ただ。

 空気だけが。

 少しだけ、またずれた。


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