何手先も読む
――帝国暦三二〇年・春初め
第七騎士団 訓練場――
三人が同時に構える。
第七騎士団、中隊長クラス。
「三対一、か」
クリスが呟く。
「レオン団長、さすがにそれは――」
「いい」
レオンが遮る。
構えは浅い。
力が入っていない。
「来い」
一言。
次の瞬間。
三方向から同時に踏み込まれる。
連携は完璧。
逃げ場はない。
(これなら)
誰もがそう思った。
だが。
レオンは動かない。
視線だけが、わずかに動く。
一歩、前へ出る。
最も早い一人の懐へ。
打ち込まれる前に叩く。
一人崩れる。
同時に背後。
振り向かない。
剣だけが流れる。
当たり、弾く。
そして。
残る一人。
動く前に。
喉元に剣先が止まっていた。
「……終わり」
レオンが剣を下ろす。
数秒。
誰も動かない。
「……なんだ、今の」
クリスが呟く。
エリシアは、わずかに目を細める。
(……また)
見たことはある。
何度も、この人の剣を。
その速さも。
その正確さも。
理解しているつもりだった。
それでも。
(……毎回、違う)
予測を、ほんのわずかに越えてくる。
慣れることができない。
(慣れてはいけないのかもしれない)
「団長」
呼ぶ。
「どこを見ているのですか」
レオンは少し考える。
「全部」
短い答え。
「動く前にわかる」
淡々と続ける。
「足の向き」
「重心」
「視線」
「順番も」
静かな説明。
(……わかる、はずなのに)
理屈は追える。
(同じことはできない)
その差が、はっきりと残る。
エリシアは静かに目を伏せる。
(……届かない)
見ている。
理解している。
それでも。
(同じ場所には立てない)
レオンは剣を戻す。
「次」
何もなかったように言う。
その場にいた全員が理解していた。
これは“先読み”ではない。
もっと前。
――動く前に、決まっている。




