早すぎる
――帝国暦三二〇年・冬初め 第七騎士団 本庁・執務室――朝。
机の上に、書類が積まれている。
「これ、終わってます」
メリエラが言った。
一同の手が止まる。
「……は?」
クリスが顔を上げる。
メリエラは紙を一枚抜く。
「第三騎士団との整合が取れていません」
「修正済みです」
別の紙を置く。
「こちらで再計算しました」
さらりと。
ダリオが紙を見る。
「……合ってるな」
「第二の分も?」
「済んでます」
間を置かない。
シエラが眼鏡を押し上げる。
「早いですね」
淡々と。
ミナが笑う。
「仕事奪われそう」
軽く言う。
メリエラは気にしない。
「分担は可能です」
レオンが言う。
「配分は」
それだけ。
メリエラが即座に答える。
「第七は現状維持」
「第二は補給線の再調整」
「第十は人員再編が必要です」
淀みがない。
「第十は現場判断に偏りすぎています」
「指示系統を一本化しないと持ちません」
一瞬の沈黙。
ダリオが息を吐く。
「……そこまで踏み込むか」
「それ、補佐の仕事じゃねえだろ」
ぼそりと。
メリエラは一瞬だけ見る。
「必要ですので」
短く応える。
レオンが言う。
「やれ」
それだけだった。
「承知しました」
迷いなく。
そのまま、一歩近づく。
そして、にこやかに笑った。
「レオン様」
「第六騎士団より、予算申請の件で問い合わせが来ています」
明るい声で。
「総庁への申請と許可の確認、および予算内容の精査を求められています」
さらりと続ける。
一瞬、空気が止まる。
クリスが振り向く。
「……なんでお前がそれ持ってんだよ」
ぼそりと。
ミナが目を細める。
「総庁、詳しいのね」
軽く言う。
メリエラは、にこやかに笑ったまま答える。
「少しだけです」
それだけ。
一瞬の間。
妙な静けさが残る。
シエラが小さく呟く。
「……少し、ですか」
ダリオが苦笑する。
「便利すぎるな、それ」
メリエラは気にしない。
ただ、レオンを見る。
にこやかに。
レオンは短く言う。
「通せ」
それだけ。
「承知しました」
迷いなく頷く。
その時、、扉が開く。
イリスが入ってくる。
一瞬で空気が整う。
メリエラが振り向く。
そして、にこやかに笑った。
「お姉様」
「……は?」
クリスが止まる。
ミナが瞬く。
ダリオが固まる。
リリアだけが動いた。
「……イリス様、です」
静かに。
メリエラは答える。
「はい」
「お姉様です」
言い切る。
一瞬、空気が張る。
リリアが一歩出る。
「その呼び方は――」
柔らかく、だが強く。
メリエラは引かない。
「許可はいただいています」
淡々と。
リリアが止まる。
ほんの少しだけ、表情が揺れる。
「……そう、ですか」
小さく。
レオンはそれを見ない。
「続けろ」
短く言う。
メリエラは頷く。
「はい」
そのまま仕事に戻る。
ただ。
場の空気だけが、少し変わっていた。




