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お姉様

――帝国暦三二〇年・冬初め 第七騎士団 本庁・客間(イリスの部屋)――午後。


 紙の音だけが、静かに響いていた。

 イリスが書類に目を落としている。

 扉の外で、控えめな声。

「……メリエラ様が、お取次ぎを願っております」

 メイドの声だった。


「通して」

 短く応える。

 扉が開く。

 メリエラが入る。

「失礼します」

 一礼。


「統括管理官補佐、メリエラです」

 イリスが顔を上げる。

「……メリエラ」

「はい」

 視線を受ける。

 逸らさない。


「殿下」

「一つ、よろしいでしょうか」

「何かしら」

 静かに。

 メリエラは、ほんの少しだけ首を傾ける。

「お姉様と、お呼びしても?」


 部屋の空気が、わずかに止まる。

 短い沈黙。

 イリスはメリエラを見る。

 じっと。

「理由を聞いても?」

 静かに問う。

「知的で、理想のお姉様の姿でしたので」

 即答だった。


 イリスの目が、ほんの少しだけ細くなる。

「……そう」

 短く答える。

 そして。

「構わないわ」

 それだけ。

 メリエラが頷く。

「ありがとうございます、お姉様」

 にこやかに笑う。

 一瞬だけ。

 空気がやわらぐ。


 だが。

 イリスは、そのままメリエラを見る。

「距離の詰め方が早いのね」

 静かに言う。

 メリエラは少しだけ考える。

「問題でしたか?」

「いいえ」


「面白いと思っただけ」

 淡く笑う。

 一瞬、空気が、わずかに揺れる。

 メリエラは、それを受け止める。


 ほんの少しだけ。

 口元が緩む。

「光栄です」

 短く。


 それで終わりだった。

 扉の外で、メイドが静かに立っている。

 部屋の中は、再び静けさに戻る。

 紅茶の香りだけが、静かに残っていた。


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