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増えただけ

――帝国暦三二〇年・冬初め 総騎士団本庁(総庁)――


 呼び出しは、簡潔だった。

「総長がお呼びです」

 理由はない。

 廊下を歩く。

 隣にエリシア。


 無言でノック。

「入れ」

 扉を開ける。


 机の奥に、ヴァルド・エイゼン。

 視線だけがこちらを見ている。

「来たか」

「任命する」


 紙が差し出される。

「騎士団統括管理官だ」

 それだけだった。

 レオンは紙を見る。


「……増えるな」

「そうだ」


「断るか?」

 レオンは少しだけ考える。

「……面倒だな」

 小さく。

 だが。

「まあ、いい」

 それで終わりだった。


「人手は?」

 レオンが言う。

「足りない」

「有能なのを寄越せ」

 淡々と。


 ヴァルドはわずかに目を細める。

「承知した」

「すぐに派遣する」

「優秀なのを」

 口元が、わずかに動く。

 にやりと。


「下がれ」

 レオンは紙を閉じる。

 踵を返す。

 エリシアも続く。

 扉が閉まる。


 ■第七騎士団 本庁・執務室

 戻ると。

 クリスがいた。

「おかえり」

「どうだった」


 レオンは椅子に座る。

「増えた」

「何が」

「仕事だ」


 クリスが顔をしかめる。

「……嫌な予感しかしねえな」

 レオンがエリシアを見る。

「で」

「何をする」


 エリシアが答える。

「第七、第二、第十騎士団の兼任に加え」

「管理官の仕事は、直接騎士を指揮・戦闘させることはありません」

 静かに続ける。

「まず騎士団全体の予算配分」

「人材育成の方針」

「訓練カリキュラムの決定」

「組織運営および将来戦略に関わる意思決定を担います」


 クリスが固まる。

「……いや」

「無理だろ」

 即答だった。

「全部じゃねえか」

 頭を押さえる。


「それ、団長の仕事じゃねえだろ」

 エリシアは短く返す。

「兼任ですので」

 それだけ。


 クリスはレオンを見る。

「お前、もう少し考えて受けろよ」


 レオンは少しだけ考える。

「……考えた」

 短く。


「面倒だと思った」

 それだけだった。

 クリスは天井を見る。

「……だめだこいつ」

 小さく呟く。


 レオンは書類を机に置く。

「増えただけだな」


「人は来るはず」

 小さく言う。

「優秀なのが」

 繰り返す。


 エリシアは、何も言わなかった。

 その日、第七騎士団は変わらなかった。

 ただ、仕事だけが少し増えた。


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