表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/157

書簡 ― 見えないものの報告

 ――帝国暦三二〇年・冬前

 東ロンバルディア帝国騎士団領

 ヴァイス邸 客間――夜。


 灯りは一つ。

 机の上に紙が広げられている。

 イリスはペンを手にしていた。

(……さて)

 報告。

 帝都への。

 そして――父への。


 静かに、書き始める。


 ――東ロンバルディア帝国騎士団領は、想定以上に安定しています。

 運用は効率的で、無駄が少ない。規律は保たれていますが、過度ではなく、柔軟性も確認されました。


 ――人員の質も高く、特に幹部層の統制が機能しています。

 副官エリシアの管理能力は優秀です。

 ただし、現場からの心理的距離はやや大きい傾向があります。


 少しだけ間を置く。

 ――一方で、リリア・ヴァイスの存在が、組織に別種の影響を与えています。統制とは異なる形で、士気を安定させている様子が見られます。


 ペンがわずかに止まる。

(……別種、でいいでしょうか)

 だが、それ以上の言葉は出てこない。

 そのまま進める。


 そして。

 ――団長レオンハルト・ヴァイスについて。わずかに息を吐く。

 ここからが本題。

 ――能力は高いと判断します。

 判断力、決断力ともに問題はなく、現場の信頼も厚い。現時点で、騎士団領の中核として機能しています。


 さらに書き加える。

 ――剣技に関しても優秀です。

 速度と先読みの精度が高く、騎士団内でも有数の実力と評価されています。


 ここまでは明確。

 問題は、その先。

 ペン先が止まる。

 少しだけ考え、再び動かす。


 ――しかし、その性質は特異です。

 ――本人は自覚していませんが、周囲に与える影響が大きい。意図的ではなく、自然に発生している点が特徴的です。


 ――また、対人距離の取り方に一貫性がありません。無関心に見える場面と、過度に踏み込む場面が混在しています。

 意図的な制御は確認できません。

 ペンが止まる。


(……結局)

 評価として、どうまとめるか。

 しばらくして。

 再び、書く。

 ――現時点では、人物像の把握は困難です。

 ――理解に至っていません。

 短く、補足する。


 ――ただし。

 ――非常に興味深い人物であることは、間違いありません。

 書き終える。


 ペンを置く。

 静寂、紙の上には、整った報告が残っている。イリスはそれを見て、少しだけ首を傾げた。

(……やはり、不十分ですね)

 事実は書いた。

 分析もした。

 それでも。


(核心に触れていない)

 しばらく、そのまま見つめる。

 そして、ふっと息を吐いた。

(……これだけ考えても)

(わからない人、ですか)

 わずかに、口元が緩む。

(悔しいですが)

 静かに、呟く。

(大変、面白い)


 紙を整える。

 封を閉じる。

 報告は、完成した。

 窓の外を見る。

 夜は静かだった。


 だが――

 まだ、見えていないものがある。

 それだけは、確かだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ