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本人だけが知らない件

 ――帝国暦三二〇年・秋終盤

 東ロンバルディア帝国騎士団領

 第七騎士団 本庁・執務室――昼。


 仕事は、いつも通り回っている。

 書類。

 指示。

 流れ。

 乱れはない。


 その中で。

 ダリオは、少しだけ落ち着かない。

(……気のせいじゃないよな)


 昨日の光景。

 一瞬だけ崩れた副官の姿。

 頭から離れない。

 ちらりと視線を向ける。


 エリシア。

 完璧だ。

 隙はない。

 いつも通り。

(……見間違いか?)

 一瞬、そう思う。


(いや)

 確かに、あった。

 ダリオは、小さく息を吐く。

 そして。

 何気ない調子で、口を開いた。


「エリシア副官」

「何でしょうか」

 即答で視線が来る。

 逸らせない。


「その……団長とは」


「親しいんですか?」

 自然な質問。

 に見せる。

 エリシア副官は、迷いなく答える。

「業務上の関係です」


 揺れはない。

(……だよな)

 予想通り。

 だが。

 ダリオは、もう一歩踏み込む。

「名前で呼ばれることとか……」

 一瞬。

 ほんの一瞬だけ。

 エリシアの動きが止まる。

 だが、すぐに戻る。


「……そのような事実はありません」

 断言。

 迷いなし。

 完全な否定。


 ダリオは黙る。

(いや、あっただろ)

 心の中で突っ込む。

 エリシアは続ける。


「不確かな情報を基にした認識は」

「業務上、好ましくありません」

 正論。

 隙がない。

 反論できない。


「でも」

 リリアの声。

 ふわりと入る。

「空気は、少し柔らかくなりますね」

 微笑む。

 自然に。

 何気なく。


 だが。

 核心を突いている。

 ダリオが固まる。

(やっぱりあったな)


 確信に変わる。

 エリシアは、リリアを見る。

 ほんの一瞬。

 何か言いかけて。

 やめる。


「……気のせいです」

 短く言う。

 それで終わらせる。


 ダリオは、ゆっくりと頷く。

「……なるほど」

 納得したふりをする。

 そのとき。

 エリシアの視線が、ダリオに向く。

 静かに真っ直ぐに。

 逃げ場がない。


「他に、何かありますか」

 低い声。

 圧がある。

 ダリオの背筋が伸びる。


「……いえ」

 そして、心の中で思う。

(……やっぱり怖い)

 結論は、変わらなかった。


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