兄からの手紙
――帝国暦三二〇年・秋終盤
東ロンバルディア帝国騎士団領 第七騎士団 本庁・執務室――
その手紙は、いつもと違う封で届いた。
「帝都より書簡です」
エリシアが差し出す。
「……またか」
レオンは小さく息を吐く。
最近、“上”からの書簡にろくなものはない。
「……皇太子」
封に目を落とし、わずかに眉を上げる。
封を切り、広げる。
中身は短かった。
――レオンへ
妹がそちらにすでに行ったと聞いた。
あいつらしい動きだ。
正直に言えば、愛想のある性格ではない。
言葉は固く、可愛げも足りない。
だが、誠実だ。
知識に関しては――私以上だろう。
……悔しいがな。
面倒なところもあるが、悪くない。
もし気に入ったなら、付き合ってやってくれ。
可愛い妹を、よろしく頼む。
――アシュレイ
「……軽いな」
レオンが呟く。
「らしいですね」
エリシアが応じる。
「妹君の評価としては、妥当かと」
レオンは手紙を見たまま、少しだけ考える。
(……誠実、か)
思い当たる。
無駄がない。
嘘もない。
そして――
(……よく喋る)
気づけば、会話している時間が増えている。
自然に。
「団長」
エリシアが呼ぶ。
「いかがご判断されますか」
一瞬だけ、言葉を探す。
「……問題ない」
短く。
それが本音だった。
エリシアの指が、わずかに止まる。
(……そうおっしゃいますのね)
否定はしない。
(肯定、ですわね)
その横で。
リリアは静かに立っている。
表情は変わらない。
けれど。
(……認められてる)
ただの客人ではない。
“家族に認められた存在”。
レオンは手紙を畳む。
「……直接言えばいいのに」
「距離の取り方かと」
エリシアが答える。
「信頼しているからこそ、任せるのでしょう」
(自分を信頼か)
その言葉が、わずかに残る。
そのとき。
「お呼びでしょうか」
イリスが現れる。
レオンが手紙を軽く振る。
「イリスの兄からだ」
「……そうですか」
ほんのわずかに、表情が動く。
「何と?」
「可愛げがないってさ」
一瞬の沈黙。
エリシアが目を伏せる。
リリアは息を止める。
イリスは――
「……否定いたしません」
あっさりと言う。
「事実ですので」
レオンが吹き出す。
「そこは否定しろよ」
「無意味です」
「正確な評価は、受け入れるべきです」
淡々と。
だが、ほんのわずか声が柔らぐ。
「でも」
レオンが続ける。
「誠実だってさ」
イリスの動きが止まる。
「……そうですか」
短い返事。
それだけなのに、少しだけやわらかい。
「あと」
レオンが続ける。
「可愛い妹をよろしく、だと」
今度は、はっきりと。
イリスが目を逸らす。
「……余計な一言ですね」
「まあな」
わずかに空気が緩む。
そのやり取りを。
エリシアとリリアは見ている。
(……自然ですわね)
エリシアは思う。
無理がない。
距離が、近い。
(……違う)
リリアは静かに拳を握る。
(……入ってきてる)
外から来たはずの存在が。
もう、外ではない。
レオンは手紙を机に置く。
(……任せるか)
選ばされているわけではない。
任されている。
その違いが。
ほんの少しだけ。
心を軽くする。
(……それでも)
外への想いは消えない。
むしろ。
はっきりと形になっていく。




