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噂の姫様 ― 朝が完成している場所

 ――帝国暦三二〇年・秋終盤

 東ロンバルディア帝国騎士団領

 第七騎士団 本庁前――朝。


 まだ人の動きが揃う前の時間。第十騎士団、副官ヴァルドは早く来ていた。

 理由は特にない。

 ただ――

 “様子を見るため”。


「……静かだな」

 ぽつりと呟く。

 隣にシエラ。

「開始前ですから」

 当然の答え。

 だが、どこか違う。

 空気が張っている。

 整っている。

 まだ誰も動いていないのに、


 ダリオが欠伸をしながら来る。

「早いな、お前ら」

「見ておけ」

 ヴァルドが短く言う。


「何をだ?」

 そのとき。

 足音。

 軽い。


「おはようございます!今日は空気が軽いですね!」


 明るい声。

 リリア。

 それだけで、空気が、動いた。


「姫様、おはようございます!」

 一斉に声が上がる。

 揃う騎士たち。

 だが、固くない。

 どこか柔らかい。


 ミナが目を丸くする。

「……すごい」

 思わず漏れる。

 シエラが静かに言う。

「統制されています」

「ですが、強制ではありません」

 分析。


「……」

 わずかに言葉を探す。

「機能しています」

 ヴァルドが腕を組む。

「……あれが“噂の姫様”か」


 視線の先。

 リリアは、ただ挨拶を返している。

「おはようございます!」

 それだけ。


 騎士たちの表情が緩む。

 肩の力が抜ける。

 それでも姿勢は崩れない。

 その状態で。

 次の動きが、早い。


 誰かが動き出す。

 それに続く。

 自然に。

 ダリオが笑う。


「なんだこれ」

「うちと空気が違いすぎるぞ」

 率直な感想。

 ミナが頷く。

「……朝って、こんな感じじゃないです」

 シエラが続ける。


「通常は、もっと重い」

「動き出しに時間がかかる」


「ですが、ここは違います」

 視線が動く。


 執務室

 イリスはすでに座っている。

 静かに書類を整えている。


 その横。

 エリシア。

 全体を見ている。

 まだ指示は出していない。

 けれどいつでも動かせる。


 そして――

 中心。

 リリア。

 微笑み、返す。

 声を出す。

 それだけで。

 全体が動く。


 ヴァルドが小さく呟く。

「……理解した」

「何をだ?」

 ダリオが聞く。

「噂の意味だ」

 短く。

 シエラが頷く。


「“姫様”は役職ではありません」


「……機能しています」

 言い切る。

 ミナが小さく言う。

「……あれ、欲しいです」

 本音。


 ダリオが即答する。

「無理だろ」

 軽い。

 だが正しい。


 そのとき。

「おはようございます」

 イリスの声。

 静か。

 だが、通る声。


 エリシアが続く。

「配置に移りなさい」

 短く。

 一瞬で、空気が締まる。


 そして、一斉に動き出す。

 速い、迷いがない。

 ヴァルドはそれを見て、

 小さく息を吐いた。


「……これは」


「勝てん」

 ダリオが笑う。

「何にだよ」


「朝だ」

 真顔。

 シエラが目を伏せる。

「ええ」

「士気で負けています」


 ミナが頷く。

「最初から、違います」

 そう。

 始まる前から。

 もう、違っている。


 それが――

 第七騎士団だった。

 少なくとも。

 彼らの知っている騎士団とは、違う。


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