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普通ではない場所 ― 連携の完成

 ―帝国暦三二〇年・秋終盤

 東ロンバルディア帝国騎士団領

 第七騎士団 本庁――朝。


 まだ静かな時間。

 第十と第ニの面々が、少し早く集まっている。ヴァルドが腕を組む。


「……妙だな」

 短く言う。

 シエラが頷く。

「ええ」

 ダリオが首を傾げる。

「何がだ?」

 ミナも小さく続く。

「……普通じゃない」

 ヴァルドが言う。


「何が“普通じゃない”のかは分からんが」


「普通じゃない」

 雑だが、核心だった。

 シエラが補足する。


「回りすぎています」

「……は?」

 ダリオが顔をしかめる。

「回るのはいいことだろ」

「ええ、通常は」

 シエラは淡々と続ける。


「あの量で」

「昨日の速度で」

「滞りがほとんどない」


「あり得ません」

 断言。

 ミナが小さく頷く。


「……私のところだと、どこかで止まります」

 ダリオが腕を組む。

「……まあ、確かに」

「無茶はしてたな」

 ヴァルドが視線を向ける。


 執務室の奥。

 イリスが静かに書類を分けている。

 流れを整える。

 無駄がない。


 その横のエリシア。

「その順序では遅れます」

「こちらを先に」

 指示が飛ぶ。

 速くて正確。


 そして。

 リリアが走る。

「次、お願いします!」

 明るい声。

 それだけで、周囲が動く。

 自然に迷いなく。


 ヴァルドが小さく言う。

「……あれだな」

「どれだ?」

 ダリオが聞く。

「全部だ」

 短いが正しい。


 シエラが目を細める。

「皇女殿下の処理能力」

「副官殿の運用」

「そして――」


「“噂の姫様”の存在」


 言葉を選びながら。

「空気が、繋がっています」

 ミナが小さく呟く。

「……はい」

「動きやすいです」

「迷わないです」

 ダリオが笑う。


「噂の姫様、すげえな」

 素直な感想。

 ヴァルドが頷く。

「……あれがいると」

「止まらん」


 そのとき。

「おはようございます!」

 リリアの声。

 明るい。


 それだけで。

 空気が、変わる。

 軽くなる。

 流れが、早まる。


 ミナが目を丸くする。

「……ほんとだ」

 シエラが静かに言う。

「数値には出ませんが」

「明確に影響しています」


 しかし、ヴァルドは少しだけ眉をひそめた。

「……違うな」

「え?」

 ミナが見る。

「繋いでる、だけじゃない」

「もう、出来上がってる」


「……完成している」

 シエラが静かに言う。

 偶然ではない。

 勢いでもない。

 無理でもない。

 ――成立している。

 それが、一番おかしかった。


 そのとき。

 ミナが、ふと手を止める。

「……あれ?」

「どうしました?」

 シエラが聞く。

「いえ、その……」

 少し考えて。

「私、さっきからずっと書いてますよね?」


 ダリオが笑う。

「仕事だからな」

「いや、そうなんですけど」

 ミナは首を傾げる。

「……疲れてないです」

 長い沈黙。


 ヴァルドがぼそっと言う。

「……俺もだ」

「いつもなら、どこかで落ちる」


「だが、今日は――止まらん」

 シエラが頷く。

「集中が途切れていません」

「効率も維持されています」

 わずかに目を細める。


「……通常ではあり得ない状態です」

 ダリオが頭を掻く。

「……気合い入ってるだけじゃねえのか?」

「違います」


「再現性がありません」

 ミナが小さく呟く。

「……なんか」


「頑張れてしまいます」

 言ってから、少し驚く。

 ヴァルドが視線を向ける。


 リリア。

 明るく動き回っている。

 エリシア。

 正確に指示を飛ばす。

 イリス。

 流れを整えている。


「……あれか」

 小さく呟く。

 だが、答えは出ない。

 理由は、そこにある気がした。


 一方、少し離れた場所。

 レオンが見ている。

 腕を組み。

 ただ、見る。


 クリスが隣に来る。

「気づいたな」

 楽しそうに言う。

「遅いくらいだ」

 レオンは短く返す。


「どうする?」

「何がだ」

「欲しがられるぞ」


 レオンが、わずかに目を細める。

「させるか」

 速答で迷いがない。


 クリスが肩をすくめる。

「だよな」

 軽い。

 だが本気だ。


 そのとき。

「団長」

 エリシアが来る。

 書類を持っている。

「本日の分、整理できております」

 淡々と。


 けれど、以前より少しだけ柔らかい。

 レオンが受け取る。

「……早いな」

「効率が上がっておりますので」


 わずかに視線を逸らす。

「……全体として」

 言葉を濁す。


 それで十分だった。

 レオンは、小さく笑う。

(……変わったな)

 ほんの少し。

 だが、確実に。

 この場所は。

 もう――

 普通ではない。


 そして、それは。

 誰かが作ったものではなく。

 いつの間にか、そうなっていた。

 だからこそ。

 少しだけ、厄介だった。


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