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止めないまま整える

 ――帝国暦三二〇年・終盤

 東ロンバルディア帝国騎士団領

 第七騎士団 本庁――昼。


 ざわついている。

「補給が遅れております」

 報告が飛ぶ。

「三番隊、明日の出発に間に合いません」

 別の声。

 書類が積まれる。

 机が埋まる。

 流れが、詰まる。


「原因は?」

 エリシアの声。

 鋭く。

 だが、崩さない。

「転記ミスが連鎖しております」

「……また、ですか」

 わずかに眉が寄る。


「修正すれば戻りますが、時間が――」

「間に合いません」

 結論が出る。

(……止めるしかありません)

 エリシアが判断しかけた、そのとき。

「少し、拝見してもよろしいでしょうか」

 イリスの声。


 静かだが、迷いがない。

 エリシアが視線を向ける。

 一瞬だけ。

 間を置く。

「……構いませんわ」

 短く許可する。


 イリスが前に出る。

 書類を見る。

 並べ順番を変える。

 速い。

 だが、慌てていない。

「こちらでずれております」

 一枚を抜く。


「このまま修正いたしますと、全体が止まってしまいます」

「ですので」

 紙を二つに分ける。

「こちらを先に通します」

 流れを分離する。

「遅れている部分は、後ほど接続いたします」


 止めない。

 だが、崩さない。

 リリアが目を見開く。

「それで……」

「可能なのですか?」

「ええ」

 即答。

 手が動く。

 配置が変わる。

 順序が変わる。


「これで、三番隊は出発できます」

 一瞬の静寂。

「……確認いたします!」

 兵が走る。

 数秒後。

「問題ございません!」

 声が返る。


 空気が動く。

 止まらない。

 流れが、戻る。

 しかも。

 整っている。


 リリアが思わず言う。

「……すごいです」

 今度は、はっきりと。

「イリス様、本当にすごいです……!」

 隠さない。


 イリスは首を振る。

「役割を分けただけです」

 淡々と。


 けれと、それで済む話ではない。

 エリシアは動かない。

 視線だけが、イリスに向く。

 自分なら止めていた。


 だか、止めずに成立している。

(……現実で、成し遂げている)

 否定できない。

 無視もできない。


「……次からは」

 やっと、声を出す。

「事前に共有していただけますか」

 丁寧に。

 だが、強く。

「独断で進められますと、困りますので」


 それが限界。

 認めない。

 だが、否定もしない。

 イリスは頷く。

「承知しました」


 素直に。

 それ以上は言わない。

 リリアは二人を見る。

(……変わりました)

 ほんの少しだけ。


 エリシアは視線を外す。

 書類を見る。

 整っている。

 止まっていない。

(……できるのですね)

 小さく思う。


 そして。

(……だからこそ、厄介ですわ)

 誰にも聞こえないように。

 そう呟いた。

 

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