当たり前の優勝
――帝国暦三二〇年・秋終盤
東ロンバルディア帝国騎士団領
合同剣技大会 決勝戦――
歓声が上がる。
「そこまで!」
審判の声。
勝負は、一瞬だった。
踏み込み、一閃。
それだけで。
決着がつく。
「勝者――レオンハルト・ヴァイス!」
どよめきが広がる。
「やっぱりか……」
「速すぎるだろ」
「決勝であれかよ」
ざわめきと興奮の観客席。
「……すごい」
リリアが思わず呟く。
目を見開いている。
「今の、ほとんど見えませんでしたわ……」
隣で。
「……ええ」
イリスも視線を外さない。
「踏み込みの前に、すでに勝負が決まっていました」
静かな声。
だが、その奥に。
「想定以上です」
はっきりとした驚き。
レオンは剣を納める。
息も乱れていない。
何事もなかったように、場を降りる。
その横で。
「おつかれ」
クリスが軽く声をかける。
「ああ」
短いやり取り。
特別なことは何もない。
「今年も終わりだな」
「そうだな」
それだけ。
拍子抜けするほど、普通だった。
「……あの」
リリアが近づく。
「お兄さま、今の……!」
言葉を選ぶように。
「とても、お見事でしたわ……!」
素直な感嘆。
レオンは少しだけ考える。
「そうか?」
本気でわかっていない。
「はい……!」
リリアは頷く。
その隣で。
「優勝、おめでとうございます」
イリスが言う。
「ありがとうございます」
形式は整っている。
だが。
「……毎年、ですか?」
静かな問い。
レオンはあっさり答える。
「ああ」
一瞬の間。
「十三の頃からな」
当然のように。
空気が止まる。
「……十三歳から」
リリアが繰り返す。
「毎年」
「そうだな」
軽い調子。
その横で。
「今年は楽だったな」
クリスが言う。
「去年の方が面倒だった」
「そうかもな」
普通の会話。
完全に“いつものこと”。
リリアとイリスは、同時にそちらを見る。
(……驚いていない)
そこに驚く。
「……クリス様」
リリアがそっと聞く。
「これは、その……特別なことではありませんの?」
クリスは少し考える。
「いや」
肩をすくめる。
「レオンにとってはいつものことだろ」
軽く言う。
エリシアも頷く。
「はい」
迷いなく。
「例年通りかと」
それだけ。
評価ですらない。
ただの事実。
リリアは言葉を失う。
(……これが)
この場所の“普通”。
イリスは静かにレオンを見る。
(……なるほど)
理解する。
強いのではない。
すでに“そういう存在”として扱われている。
疑われていない。
驚かれていない。
そこまで含めて、完成している。
「……驚かないのですね」
イリスがぽつりと言う。
エリシアはわずかに目を細める。
「今さらですので」
静かな返答。
(……毎回、違うのに)
心の奥で、思う。
慣れない。
慣れてはいけない。
それでも。
表には出さない。
レオンは特に気にする様子もなく歩き出す。
「戻るか」
「はい、お兄さま」
リリアが並ぶ。
イリスも一歩遅れて続く。
背中を見ながら。
二人は、同じことを思っていた。
――この人は。
ずっと前から、ここにいたのだと。
誰よりも高い場所に。
当たり前の顔で。




