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見えているものが違う

 ――帝国暦三二〇年・春初め

 第七騎士団 訓練場――


 乾いた音が響く。木剣同士がぶつかり合い、空気が震える。


「……次」

 レオンが短く言う。対峙しているのは、第三騎士団から来た客将。実戦経験豊富な中堅騎士だった。


「本気でいいんだな?」

「いい」

 間がない。

 開始。

 踏み込みが速い。

 迷いがない。

 鋭い一撃。


 ――だが。

 レオンは動かない。

 ほんのわずかに、体をずらすだけ。

 空を切る。

(外れた?)

 あり得ない距離。

 あり得ないタイミング。


 次の瞬間。

 カン、と軽い音。

 客将の剣が弾かれる。

「……っ」

 体勢が崩れる。


 そこへ打ち込まれる。

 止まる。

 寸前で。

「……そこまで」


 レオンが剣を引く。


「……何をした」

 客将が呟く。

「避けただけだ」

 簡単に言う。

「違う」


「あの距離で、あの速度で、反応できるはずがない」


 レオンは少しだけ考える。

「来るのが見えた」

 一瞬、空気が止まる。

「……何が」

「軌道」

 短い答え。

「癖が出てる」

 それだけ。

「踏み込みの角度、肩の入り方、視線」

 淡々と続ける。

「全部出てるから、先にわかる」

 静かすぎる説明。

(全部……?)


 エリシアは横で聞いている。

 相変わらず、今でも理解できない。

 そんなものは、訓練や経験で手に入れるものだろうか。


(それもここまで正確に?)

 “完全に”先読みしている。


「もう一回やるか?」

 レオンが言う。

「……頼む」

 再び構える。

 今度は慎重に。

 癖を消すように動く。


 フェイント。

 角度を変える。

 速度をずらす。

 だがレオンは動かない。


 また同じ結果。

 剣が止められている。

「……」

 言葉が出ない。

「終わりでいいか」


「……ああ」

 完全な敗北。

 客将は剣を下ろす。

「……レオンハルト団長、お前は」

 絞り出すように言う。

「見えてるのか?」


 レオンは首を傾げる。

「普通だろ」

 何の疑問もない声。

 その言葉に。

 周囲が沈黙する。


 クリスが小さく笑う。

「いや、普通じゃねえよ」

 ぽつりと。


 それが一番正しい。

 エリシアは目を逸らす。

(……違う)

 これは技術じゃない。

 訓練でもない。

(感覚)

 しかも。

(説明できない種類の)


 レオンは剣を肩に担ぐ。

「次」

 何もなかったように言う。

 だが、その場にいた全員が、理解していた。

 ――この男は。

 “同じ見方をしていない”。


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