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揃え方の違い

 ――帝国暦三二〇年・秋終盤

 東ロンバルディア帝国騎士団領

 第七騎士団 本庁――昼。


 書類が積まれている。

 報告。

 物資。

 配置。

 少しだけ、噛み合っていない。

「……これ、合ってないですよね?」

 リリアが眉を寄せる。

 目の前の帳簿。

 数が合わない。


「ええ」

 イリスが静かに答える。

「どこかでずれています」

 落ち着いた声。

 焦りはない。


「……結構、ありますよね」

 リリアが少し困った顔をする。

「一つずつ確認します」

 イリスは紙を手に取る。

 順に追う。

 止まらない。

 戻らない。

 ただ、流れる。


「ここですね」

 指が止まる。

「転記の際に、一行ずれています」

 リリアが覗き込む。

「……ほんとだ」

「こちらも連動しています」


 次の書類。

 さらに次。

 繋がっている。

「ここを直せば、戻ります」

 静かな結論。

「……イリス様、すごい」

 リリアが素直に言う。

 イリスは首を振る。

「大したことではありません」

 淡々としている。


 そのとき。

「何をしているの?」

 エリシアの声。

 空気が少し締まる。

「帳簿の確認です」

 イリスが答える。


 エリシアが書類に目を通す。

 視線が速い。

「……誤差ね」

 短く言う。

「許容範囲よ」


 迷いがない。

「え、でも……」

 リリアが戸惑う。

「運用上、問題はありません」

 きっぱりと。

 止めないための判断。


 イリスは一瞬だけ黙る。

「そうですね」

 頷く。

 だが。

「このままですと」


「次の報告で、さらにずれます」

 静かに言う。

 エリシアの視線が止まる。

「……それでも、回ります」

 少しだけ強く。


 イリスは首を傾げる。

「回ることと、正しいことは別です」

 やわらかい声。

 だが、逃げない。


 一瞬、空気が張る。

 リリアが視線を行き来させる。

「現場では、優先順位があります」

 エリシアが言う。

「止めないことが最優先です」

 はっきりと。


 イリスは頷く。

「理解しています」

 一瞬の間。

「ですから、止めずに直します」

 自然に言う。


「……どうやって?」

 エリシアの声がわずかに低くなる。

 イリスは紙を整える。

 順序を変える。

「こちらを先に通して」

「この部分だけ差し替えます」


 流れは止めない。

 だが、ずれは消える。

「……ほんとだ」

 リリアが目を見開く。

 回る。

 しかも、整う。


 エリシアは黙る。

 数秒後。

 やがて。

「……任せるわ」

 短く言う。


 否定はしない。

 だが、完全には受け入れていない。

 そのまま、出ていく。

「すごいです、イリス様……」

 リリアが小さく言う。


 さっきより、強い。

 イリスは少し考えてから。

「やり方が違うだけです」

 そう答える。


 リリアは書類を見る。

(……でも)

 同じ“整える”でも。

 こんなに違うんだ。


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