第十一騎士団と動かない男(前)
――帝国暦三二〇年・秋終盤 東ロンバルディア帝国騎士団領 騎士団総庁・会議室――
重い空気が、静かに沈んでいた。
「――以上が、再編計画の最終案です」
書類が置かれる。
第十一騎士団、新設。
その団長人事。
「候補は一名」
視線が、自然と集まる。
「ノイン・ヴァルツェン現第七騎士団副団長」
当然だった。
実績、統率、安定性。
どれを取っても文句がない。
「異論は?」
ない、むしろ、遅いくらいだという空気。
「では――」
その時。
「……一つ、確認を」
誰かが口を開く。
「本人の意思は?」
わずかな間。
「……一応、確認はしておきましょう」
形だけの問い。
誰もが、そう思っていた。
――ノインが呼ばれる。
入室、背筋はまっすぐ無駄な動きはない。
「ノイン・ヴァルツェンです」
「本題に入る」
簡潔に告げられる。
「第十一騎士団長への就任を打診する」
ほんの一瞬の静寂。
それから――
「……辞退いたします」
空気が、止まった。
「……理由を」
当然の問い。
しかし。
「申し上げることはありません」
迷いも、揺れもない。
「これは命令ではない」
「打診であれば」
わずかに顔を上げる。
「私は、残ります」
それだけ。
それ以上は語らない。
「……理解できん」
誰かが呟く。
「昇進を断る理由がない」
正論。
だが。
「それでもです」
揺るがない。
その姿に、言葉が続かない。
「……保留とする」
結論は、それしかなかった。
強制すれば、意味がない。
納得がなければ、機能しない。
それがノインという人間だった。
退室。
扉が閉まる。
残されたのは――
「……なぜだ」
理解できないという空気だけだった。




