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優しい誤解と、少しの違和感

挿話全三話第二話

  ――帝国暦三二〇年・夏中頃

東ロンバルディア帝国騎士団領

第七騎士団 本庁執務室――


 午後の光が差し込む中、

 書類が静かに積まれていく。


「……それで」

 若い騎士が一人、身を乗り出す。

「ランドがですね」

(またですか……)

 リリアはペンを止める。

「団長のハンカチを……」

 一瞬の間。

「……大切そうに?」

「はい」

 騎士は頷く。

「その……匂いを……」


「え?」

 リリアが首を傾げる。

「……嗅いでいた、と」

 静かな沈黙。

 リリアは瞬きをする。

「……そう、なのですか?」


 少しだけ、声が小さい。

「はい」

「それで“間違いない”と」

「間違いない……?」

「団長のものだと」

「……ああ」


 そこで、繋がる。

(お兄さまの……)

 リリアの頬が、ほんのりと染まる。

「……そう、ですか」

 小さく微笑む。

「とても、慕われているのですね」


 騎士が固まる。

「……え?」

「その方は」

 リリアは少し考える。


「きっと、お兄さまのことが……」

 言葉を選ぶ。

「……お好きなのですね」

 空気が止まる。


「……」

 騎士が何か言おうとする。

 が、言えない。

(いや違う)

(違うけど……)

 説明できない。


「ふふ」

 リリアがやわらかく笑う。

「素敵なことです」

(いや違う)


「大切に思われる方がいるのは、とても……」

 言葉が少しだけ途切れる。

 ほんのわずかに。

(……少しだけ)

 胸の奥が、引っかかる。

 でも、すぐに消える。

「……嬉しいですね」

 そう言って、微笑む。


 騎士は完全に黙る。

(どうしよう)

 そのとき。


「団長」

 別の声。

 レオンが戻ってくる。

「……どうした」


 リリアは振り向く。

 少しだけ嬉しそうに。

「お兄さま」

 言ってしまう。

「あ……団長閣下」

 言い直す。


 レオンは気にしていない。

「何かあったか」

「はい」

 少し迷って。

 でも言う。


「とても、お兄さまを慕っている方がいらっしゃるようで」

「は?」

 レオンが眉をひそめる。

「……ランドという方です」


 暫くの沈黙。

 そしてレオンが目を細める。

「あいつか」

 ぼそり。

「はい」


 リリアは少し照れたように微笑む。

「とても……大切にされているようで」

 レオンは無言になる。


 そして。

「違う」

「え?」

「完全に違う」

 リリアが固まる。

「……そう、なのですか?」

「そうだ」


 迷いがない。

 そのとき、外の廊下から。

「俺は間違っていない!!」

 ランドの声。


「尊いものは尊い!!」

「黙れ!!」

 クリスの声。


 騒がしい。

 レオンはそれを聞いて、

 ため息をつく。

「……あれだ」

 短く言う。


 リリアは、少しだけ目を瞬く。

 そしてほんの一瞬。

 理解する。


「……」

 頬が、ゆっくり赤くなる。

「……そういう、ことでしたか」

 小さく呟く。

 少しだけ俯く。

(……よかった、のかしら)

(よくないような……)


 複雑な感情。

 しかし、レオンはもう興味を失っている。

「仕事に戻るぞ」

 それだけ言う。

「……はい」

 リリアは頷く。


 でも少しだけ。

 ペンを持つ手が、落ち着かない。

(……お兄さま)

 その呼び方が、

 ほんの少しだけ、

 意識されるようになっていた。


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