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来訪の気配

 帝国暦三二〇年 初夏

 東ロンバルディア帝国騎士団領

 第七騎士団 本庁 執務室


「お兄さま?」

 リリアが顔を出す。

「どうかされましたか?」


「……来るぞ」

「はい?」

「皇女が」

 一瞬、空気が止まる。


「……こちらに?」

「ああ」

「それも」

 レオンが続ける。

「うちに住むらしい」


 一瞬、音が消える。

 リリアの指が、わずかに握られる。

(……来る)


 言葉にはしない。

 だが、はっきりと理解する。

(……来るのですね)

 静かに。

 エリシアは目を伏せる。

「……準備を進めます」

 声はいつも通り。

 だが、わずかに硬い。


 レオンは椅子に背を預ける。

 天井を見る。

(外が、来る)

 自分が行く前に。

 向こうから。

 逃げ場のない形で。


「……めんどくさいな」

 同じ言葉。

 だが、今度は。

 少しだけ違う。


 ほんのわずかに。

 期待が混じる。

 誰もそれを指摘しない。


 ただそれぞれが理解している。

 何かが変わることを。

 まだ見えない。

 だが確実に近づいているものを。

 “イリス”という存在が、

 この場所の空気を壊すことを。


 静かに。

 けれど確実に。


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