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父と剣 

 帝国暦三二〇年 初夏

 東ロンバルディア帝国騎士団領

 第九騎士団 練習場朝


 乾いた音が、規則正しく響いている。

 鋼と鋼が触れる音。

 短く、鋭く。

「……悪くない」

 アルヴェルト・ヴァイスが言う。

 その声に、無駄はない。

 レオンは答えない。

 ただ、踏み込む。


 一歩、間合いを詰める。

 刃が走り受けられる。

 返される。

 速く重い。


 崩れない。

「……ふん」

 アルヴェルトの口元が、わずかに動く。

 打ち合いは続く。

 三合。

 五合。

 呼吸は乱れない。

 足も止まらない。


 やがてアルヴェルトが剣を引いた。

「そこまでだ」

 静かに言う。


 レオンも止まり構えを解く。

「……どうですか」

 短い問い。

「鈍ってはいないな」

「はい」

「毎朝、鍛練を行っておりますから」

「健康のためか」

「はい、そのつもりです」

「……健康、か」


 わずかな間。

 アルヴェルトは剣先を下ろす。

 視線が、息子を見る。

「書類仕事ばかりだと聞く」

「多いです」

「嫌いか」

「いいえ、苦ではありません」


 処理する。

 回す、そして整える。

 それ自体は問題ではない。


 アルヴェルトが言う。

「だか、お前のそれは」

 わずかに剣を持ち上げる。

「本来、机の上に収まるものではない」



 風が抜ける。

 遠くで、訓練の掛け声。

「……そうかもしれません」

 否定はしない。


「なら、なぜ続ける」

「必要だからです。」

「実際、人もいませんし」

 短い答え。


「必要か」

 アルヴェルトは目を細める。

「誰にとっての」

 問いは深い。


 レオンは一瞬だけ考える。

「……今の場にとってです」

 自分ではない。

 場だ、組織だ。


「……そういう答えをするようになったか」

 わずかに息を吐く。


 もう一度、レオンを見る。

「剣の道に生きてさえいれば――」

 言葉が、わずかに重くなる。

「もっと上に行けた」

「もったいない」

 本音だった。


 レオンは何も言わない。

 ただ、空を見上げる。

 薄く晴れている。

(……外)

 一瞬だけ、思いがよぎる。

 それ以上は考えない。

「また来る」

 アルヴェルトが言う。


「いつでも、お相手いたします」

 レオンが答える。

 短い会話、でもそれで十分だった。

 剣は交えた、腕も確かめた。

 しかし互いに、別のものを見ている。


 同じ場所に立ちながら。

 少しだけ違う方向を。


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