姫様防衛戦線
挿話
帝国暦三二〇年 初夏
東ロンバルディア帝国騎士団領
第七騎士団 本庁昼。
「聞いたか!?」
「聞いたぞ!!」
「断ったらしい!!」
本庁がざわつく。
いや、ざわつきではない。
完全に“祭り”だった。
「姫様が婚約断った!!」
「まだ誰のものでもない!!」
「うおおおおお!!」
(……なんだこれ)
執務室の中で、レオンが眉をひそめる。
「うるさいな」
「うるさいですね」
エリシアも即答。
珍しく一致、その時。
「団長!!!」
扉が勢いよく開く。
「入るな」
「失礼します!!!」
もう入っている。
マフガランとエゼル。
目が輝いている。
嫌な予感しかしない。
「姫様が!!」
「婚約を!!」
「断られました!!!!」
「知ってる」
速答。
「知ってるんですか!?」
「本人から聞いた」
「さすが団長……!!」
(なんで感心されてるんだ)
マフガランが拳を握る。
「これで!!」
「我々の!!」
「希望は!!」
「繋がりました!!」
エゼルが涙ぐむ。
「副隊長として……」
「感無量です……!」
「いやどこの副隊長だよ」
クリスが即ツッコミ。
「リリア様親衛隊です!!」
「そんなもんねえよ」
「あります!!」
二人で即答。
(だめだこいつら)
クリスが額を押さえる。
少しだけ声を落とす。
「お前らな」
「近づきすぎるなよ」
「は?」
マフガランが真顔になる。
「何を言っている?」
「我々は“守る側”だ」
「距離は必要だ」
「近づくなど言語道断」
「いやさっき“希望”って言ってただろ」
「それとこれとは別だ」
妙に真剣。
エゼルも頷く。
「姫様は高嶺の花」
「遠くから敬うべき存在です」
「……お前らほんとに何なんだ、何でここにいるんだ」
レオンがぽつり。
そのとき。
「お兄さま?」
扉が開く。
リリア。
空気が止まる。
「……」
「……」
マフガランとエゼルが固まる。
次の瞬間。
「姫様!!!」
姿勢を正す。
完璧な敬礼。
「お、お疲れ様です!!」
声が裏返る。
リリアは少しだけ驚き、
それでもやわらかく微笑む。
「お疲れさまです」
その一言で。
二人が崩れ落ちる。
「……尊い」
「……生きててよかった」
(……終わってるな)
クリスは視線を逸らす。
リリアは気づかないまま、
レオンへと向き直る。
「こちら、確認を」
「おう」
自然な距離。
自然なやり取り。
それを見て。
マフガランとエゼルが静かに涙を流す。
「……やはり」
「団長の隣が最も自然……」
「これが……真の距離……」
「帰れ」
「はっ!!」
二人は敬礼して去る。
去り際。
「親衛隊、継続です」
「当たり前だ」
(やめろ)
扉が閉まる、静寂が戻る。
レオンはため息。
「……人気だな」
「そうでしょうか?」
リリアは首を傾げる。
本気でわかっていない。
(そこなんだよな……)
クリスは椅子にもたれる。
苦々しい顔。
でもほんの少しだけ、安堵も混じる。
(……まあ)
(誰にも渡らないなら)
それはそれでいい。
そんなことを思ってしまう。
その外では。
まだ“祭り”が続いていた。
「姫様防衛線、維持!!」
「配置につけ!!」
(……誰か止めろ)
誰も止めない。
第七騎士団は、今日も平和だった。




