表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やめたい騎士団長は、なぜか昇進し続ける  作者: サザルト
第1章 騎士団長編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
37/212

第37話 姫様防衛戦線

挿話

――帝国暦三二〇年・初夏 ヴェリア帝国 東ロンバルディア 帝国騎士団領 第七騎士団 本庁 執務室――



「聞いたか!?」


「聞いたぞ!!」


「断ったらしい!!」


 本庁がざわつく。

 いや、ざわつきではない。


 完全に“祭り”だった。


「姫様が婚約断った!!」


「まだ誰のものでもない!!」


「うおおおおお!!」


(……なんだこれ)


 執務室の中で、レオンが眉をひそめる。


「うるさいな」


「うるさいですよ」


 エリシアが、廊下へ向けて鋭く言う。


 だが、騒ぎは収まらない。むしろ外の声は、さらに大きくなっていた。


「団長!!!」


 扉が勢いよく開く。


「入るな」


「失礼します!!!」


 もう入っている。


 マフガランとエゼル。


 目が輝いている。


 嫌な予感しかしない。


「姫様が!!」


「婚約を!!」


「断られました!!!!」


「知ってる」


 ため息。


「知ってるんですか!?」


「本人から聞いた」


「さすが団長……!!」


(なんで感心されてるんだ)


 マフガランが拳を握る。


「これで!!」


「我々の!!」


「希望は!!」


「繋がりました!!」


 エゼルが涙ぐむ。


「副隊長として……」


「感無量です……!」


「いや、どこの副隊長だよ」


 クリスが即座にツッコむ。


「リリア様親衛隊です!!」


「そんなもんねえよ」


「あります!!」


 二人で即答する。


(だめだこいつら)


 クリスが額を押さえる。

 少しだけ声を落とした。


「お前らな」


「近づきすぎるなよ」


「は?」


 マフガランが真顔になる。


「何を言っている?」


「我々は“守る側”だ」


「距離は必要だ」


「近づくなど言語道断」


「いや、さっき“希望”って言ってただろ」


「それとこれとは別だ」


 妙に真剣だった。


 エゼルも頷く。


「姫様は高嶺の花」


「遠くから敬うべき存在です」


「……お前らほんとに何なんだ。何でここにいるんだ」


 レオンがぽつりと呟く。


 その時。


その時。


「お兄さま?」


 扉が開く。


 リリアだった。


 少しブラウンが混じった長い金髪が、扉の動きで流れ込んだ空気にふわりと揺れた。


 髪に結ばれた青いリボンも、遅れて小さく揺れる。


 小柄で、華奢な立ち姿。


 けれど背筋は自然に伸びていて、騒がしかった執務室の空気が、その一瞬だけ静かになった。


 リリアは少しだけ驚き、室内を見回す。


 そして、やわらかく微笑んだ。


 空気が止まる。


「……」


「……」


 マフガランとエゼルが固まる。


 次の瞬間。


「姫様!!!」


 二人は姿勢を正す。


 完璧な敬礼。


「お、お疲れ様です!!」


 声が裏返る。


 リリアは少しだけ驚き、それでもやわらかく微笑んだ。


「お疲れさまです」


 その一言で、二人が崩れ落ちる。


「……尊い」


「……生きててよかった」


(……終わってるな)


 クリスは視線を逸らす。


 リリアは気づかないまま、レオンへと向き直った。


「こちら、確認を」


「おう」


 自然な距離。

 自然なやり取り。


 それを見て、マフガランとエゼルが静かに涙を流す。


「……やはり」


「団長の隣が最も自然……」


「これが……真の距離……」


「帰れ」


「はっ!!」


 二人は敬礼して去る。


 去り際。


「親衛隊、継続です」


「当たり前だ」


(やめろ)


 扉が閉まり、静寂が戻る。


 レオンはため息をついた。


「……人気だな」


「そうでしょうか?」


 リリアは首を傾げる。

 本気で分かっていない。


(そこなんだよな……)


 クリスは椅子にもたれる。


 苦々しい顔。

 でも、ほんの少しだけ安堵も混じる。


(……まあ)


(まあ誰にも渡らないなら)


 それはそれでいい。


 平和で助かるし…。


 そんなことを思ってしまう。


 その外では、まだ“祭り”が続いていた。


「姫様防衛線、維持!!」


「配置につけ!!」


「うるさいですよ!」


 エリシアの声が響く。


 しかし、親衛隊の歓声はいつまでも鳴り響いていた。


 レオンは、静かに頭を抱えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ