↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やめたい騎士団長は、なぜか昇進し続ける  作者: サザルト
第2章 総騎士団副長編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
278/313

第2章73話 二週間後に分かる

――帝国暦三二二年・春中頃 ヴェリア帝国 東ロンバルディア騎士団領 総騎士団副長府庁舎――


■総騎士団副長府庁舎・大会議室


 再編案そのものについては、ひとまず仮編成で試すことになった。


 ならば次に決めるのは、どの大隊で試すのか。そして、何と比べるのかだった。


 レオンは九人の大隊長を見回す。


「ジェイド」


「はい」


 第一大隊長のジェイドが顔を上げた。


「ガレス」


「はい」


 第二大隊長のガレスも続く。


「お前たち二人の大隊でやってみる」


「第一と第二で、ですか?」


 ガレスが尋ねた。


「ああ」


 レオンはジェイドを見る。


「第一大隊は何も変えるな。編成も戦い方も今まで通りだ。敵が来れば受ける。押せるなら押す。敵が崩れたら追え。戦えるなら、そのまま戦え」


「承知しました」


 ジェイドはすぐに答えた。


 今度はガレスを見る。


「第二大隊は逆だ。メリーの指導を受けろ」


 ガレスがメリーへ視線を向ける。


「天輪を?」


「ああ。一週間、訓練する」


「一週間ですか?」


「ああ」


「短くありませんか?」


「短い」


 レオンはあっさり認めた。


「でも、最初から完璧にしろとは言ってない。天輪の動きを覚えられるのか、実際に部隊を動かせるのか。まずはそこを見る」


 ガレスは少し考えてから頷いた。


「承知しました」


「それで、一週間後に第一大隊と第二大隊で模擬戦をやる」


 大会議室が少し静かになった。


「第一大隊は従来方式、第二大隊は天輪。千五百対千五百で実際にぶつける」


 レオンは他の大隊長たちにも視線を向ける。


「お前たちも全員見る。勝ち負けだけじゃない。本当に天輪が使えるのか、従来の戦い方と比べて何が違うのか、使えるところはあるのか、問題があるなら何なのか。全部見たあとで、もう一度話す」


 何人かの大隊長が小さく頷いた。


「実際に見てから判断するということですか」


「ああ。口で説明してても終わらないからな。駄目なら直す。使えるなら先へ進める。それだけだ」


 大きな反論は返ってこなかった。


 少し離れた席では、リリアが決定事項を書き留めている。


 第一大隊は従来方式。第二大隊は戦術天輪を訓練。一週間後に模擬戦を実施。


 そこまで話がまとまったところで、メリーが口を開いた。


「お兄様」


「何だ?」


「先ほど決めた模擬戦についてですが、反対です」


「…………」


 レオンが顔を上げた。


「何に?」


「第一大隊と第二大隊を戦わせることにです」


 ジェイドとガレスも揃ってメリーを見る。


「今さらか?」


「確認していました」


「何をだ」


 メリーは第一大隊と第二大隊の資料を並べた。


「第一大隊は、旧第七騎士団の精鋭部隊を母体としています。現在の十個大隊を単独戦力で比較するなら、おそらく最も強いでしょう」


 ジェイドの表情が、ほんの少しだけ緩む。


「第二大隊も、旧第十騎士団の精鋭部隊を母体としています。第一大隊には若干及ばないと考えますが、戦力はかなり近いです」


 今度はガレスがわずかに姿勢を正した。


「だったら、ちょうどいいんじゃないのか?」


「いいえ。近すぎるから駄目なのです」


「何でだ?」


「第二大隊が勝ったとしても、天輪によって勝ったのか、もともとの戦力で勝ったのかが分かりません。それでは比較になりにくいです」


 何人かの大隊長が資料へ視線を落とした。


「まあな」


 クリスが呟く。


「第二が勝っても、元から強いからだって言われるだろうな」


「はい」


「じゃあ、どうする?」


 レオンが尋ねると、メリーは別の資料を一つ抜き出した。


「第四大隊を使います」


「…………」


 クリスが止まった。


「は?」


「第一大隊と第四大隊で模擬戦を行います」


「ちょっと待て。何で俺のところなんだよ」


「理由はいくつかあります」


「嫌な予感しかしねぇな」


 メリーは第四大隊の資料を開いた。


「第四大隊は、第一大隊と比較して明確に戦力が劣ります。若い騎士や兵士が多く、戦場経験にも差があります」


「いきなりそこからかよ」


「それから、指揮官の経験にも差があります」


「おい。俺まで入れる必要あるか?」


「あります」


 メリーは気にせず続けた。


「クリスさんは以前、中隊長でした。中隊を率いた経験は十分にありますが、現在の第四大隊ほどの人数を直接率いるのは初めてです」


 クリスは何も言わなかった。


 そこは事実だった。


 ヴァイス騎士団が作られる以前、クリスが率いていたのは旧第七騎士団の第六中隊である。


「一方、ジェイドさんとガレスさんは、以前から副団長を務めています。多数の騎士や兵を動かす指揮経験という点でも差があります」


 クリスは嫌そうな顔で資料を見る。


「つまり、兵も若い。戦場経験でも負けてる。俺も大隊規模の指揮は初めて」


「はい」


「そこまで並べられると、俺のところ相当弱そうだな」


「第一大隊と比較すれば、そうです」


「即答するな」


 レオンが第四大隊の資料を見る。


「じゃあ、第四を選ぶ理由は弱いからか?」


「それだけではありません」


「まだあるのか」


「はい」


 メリーはクリスを見る。


「クリスさんは、比較的頭が柔らかいです」


「…………」


 クリスが少しだけ顔を上げた。


「お」


「これまでと違うという理由だけで、新しい方法を拒否することは少ないです」


「おお」


「理由を説明すれば、必要な指示にも従っていただけると思います」


「珍しく褒めてるな」


「はい」


「もっと言っていいぞ」


「私としても使いやすい人です」


「…………」


 クリスの顔から笑みが消えた。


「最後ので全部台無しだろ」


「褒めています」


「どこがだよ」


「頭が柔らかく、指示を受け入れていただきやすいという意味です」


「結局、使いやすい奴ってことじゃねぇか」


 レオンが少しだけ笑った。


「でも、間違ってないだろ」


「お前まで乗るな」


 メリーは二人を気にせず、第一大隊と第四大隊の資料を並べた。


「従来の戦い方で正面から戦えば、第一大隊が明確に有利です。その第四大隊に天輪を訓練していただき、戦力差をどこまで埋められるのかを見ます」


 九人の大隊長を見回す。


「第四大隊が第一大隊に勝った場合、少なくとも『もともと第四大隊の方が強かった』とは言えません。逆に、まったく通用しないのであれば、その結果も受け入れるべきです」


 レオンは二つの資料を見比べた。


 確かに、第二大隊では戦力が近すぎる。第四大隊ほど明確な差がある方が、天輪そのものの効果は判断しやすい。


「これを覆せれば、他の大隊長も納得するってことか」


「はい。少なくとも、今よりは納得していただけると思います」


 大隊長たちは誰も否定しなかった。


 その中で、クリスだけが嫌そうな顔をしている。


「……つまり俺のところが」


「ああ」


 レオンが答えた。


「一番分かりやすい実験台だな」


「お前が言うと余計腹立つな」


「じゃあ決まりだ」


「待て」


「何だ」


「俺、まだやるって言ってないぞ」


「そうなのか?」


「そうだよ!」


 クリスは腕を組んだ。


「第一大隊だぞ。向こうは何も変えない。こっちは今までやったこともない戦い方を覚えろ。それで勝てって?」


「そうだ」


「断る」


「そうか」


 レオンはあっさり答えた。


「ああ。じゃあ今年の賞与なしな」


「…………」


「は?」


「今年の賞与。なし」


「何でだよ!」


「やらないんだろ?」


「そういう問題じゃねぇ!」


「賞与は俺と財務課で決めてるの、知ってるだろ」


「知ってるけど!」


「嫌ならやればいい」


「それ、結局断れないってことだろ!」


「いや。お前にもちゃんと選択肢はある」


「どこにだよ!」


「賞与をもらわない自由と、戦う自由だ」


「選択肢になってないだろ!」


「ああ」


「最初からそう言え!」


「言ったら文句言うだろ」


「今も言ってる!」


「やっぱり同じだな」


「同じじゃねぇ!」


 大会議室にクリスの声が響いた。


 少し離れたところで、リリアのペンが止まる。一度レオンとクリスを見てから、何かを書き込んだ。


「で?」


 レオンが聞く。


「やるのか?」


 クリスはしばらく腕を組んだまま黙っていたが、やがて第一大隊長のジェイドを見る。


「もし勝ったら、賞与くらい奮発してくれるんだろうな」


「勝つ自信があるのか?」


「ある」


「第一大隊が相手でも?」


「そりゃ強いのは分かってるけどな。こっちだってちゃんと訓練してる」


「嘘つけ」


「何でだよ」


「お前、普段は大抵うちの第一執務室にいるだろ。第四大隊本部より、こっちで見る方が多い気がする」


「おい。そういうことをここで言うなよ!」


 一人の大隊長がクリスを見る。


「第一執務室によくいるという話は聞くな」


「何で知ってるんだよ!」


「噂になるからだろう」


「ならなくていいだろ!」


 大会議室に小さな笑いが起きた。


「遊び歩いてるのもよく聞くぞ」


 レオンが平然と続ける。


「レオン、お前はもう黙れ」


「訓練してるって言ったからな」


「してるよ!」


「そうか」


「何だよ、その顔!」


 また笑いが起きた。


 クリスは額を押さえてから、強引にレオンへ向き直る。


「もういい。その話は終わりだ。今は賞与の話だろ」


「話を戻したな」


「戻すよ! 勝ったら賞与、奮発するんだろうな?」


「勝ったら考える」


「考えるじゃなくて奮発しろ」


「自信あるんだろ?」


「ある」


「じゃあ勝てばいい」


「言ったな?」


「ああ」


 クリスはもう一度ジェイドを見る。


 ジェイドは落ち着いた顔のまま、その視線を受けていた。


「……分かったよ。やる」


「そうか」


「第四大隊で勝てばいいんだろ」


「ああ」


「賞与、忘れるなよ」


「勝ったらな」


 メリーは第四大隊の資料をクリスの前へ寄せた。


「では、クリスさん。第四大隊には天輪を訓練していただきます」


 クリスの表情が少しだけ真面目になる。


「一週間で?」


「はい。その予定です」


 クリスは資料を見ながら、少し考えた。


「俺はやれって言われりゃやるけどな。千五百人全員が、すぐ納得するとは限らないぞ」


 メリーの動きが止まった。


「さっき、お前も言ってただろ。今までと違うから嫌だって奴はいる。俺がいいって言ったからって、全員が次の日から頭を切り替えられるわけじゃない」


「……そうですね」


 メリーは第四大隊の資料へ視線を落とした。


「まず、そこからですね」


「何がだ?」


 レオンが尋ねる。


「天輪の動きを覚えていただく前に、これまでの戦い方に対する認識を変えていただく必要があります。まだ戦えるのに、なぜ下がらなければならないのか。今まで通りではいけないのか。そう考える者もいるでしょう」


 ジェイドとガレスは何も言わなかった。


 つい先ほどまで、自分たちも似たような反対をしていたからだ。


「まず、その認識を変える。その上で天輪の基本的な動きを覚えていただき、繰り返し訓練する。可能であれば、陣形の変更まで行いたいです」


 メリーはそこまで言ってから少し考えた。


「一週間では、短いかもしれません」


 レオンが眉を上げる。


「さっき一週間って決めたばかりだぞ」


「はい。ですが、認識を変えるところから始めるのであれば、余裕を持たせた方がいいです」


「どれくらい欲しい?」


「二週間ください」


「二週間か」


「はい。完璧にはできませんが、模擬戦で試せるところまでは持っていきます」


 レオンは頷いた。


「分かった。二週間にする」


 リリアのペンが動く。


 先ほど書いた「一週間後」に線が引かれ、その横へ「二週間後」と書き直された。


「ジェイド」


「はい」


「第一大隊はそのままだ。二週間後、本気でやれ」


「もちろんです」


「クリス」


「何だ」


「二週間、メリーの言うことを聞け」


「…………」


 クリスがレオンを見る。


「俺は子供か?」


「勝手なことするなって意味だ」


「しねぇよ!」


 どこかから小さな笑い声が漏れた。


 クリスが周囲を見る。


「笑うな」


「笑っていません」


 メリーが答える。


「お前、何でちょっと嬉しそうなんだよ」


「二週間いただけましたので」


「そっちかよ」


 また少し笑いが起きた。


「まあいい」


 レオンが話を戻した。


「二週間後、第一大隊と第四大隊で模擬戦をやる。第一大隊は従来方式、第四大隊は天輪。全員で見て、その結果を踏まえて今後を決める。異論は?」


 少し間を置いて、ジェイドが頷いた。


「ありません」


 ガレスも続く。


「私もありません」


 他の大隊長たちからも了承の声が上がった。


「よし」


 すると、今まで議事録を取っていたリリアが顔を上げた。


「では、決定事項を確認します」


「ああ」


「二週間後、第一大隊と第四大隊による模擬戦を実施。第一大隊は従来方式、第四大隊は戦術天輪を使用。全大隊長が見学し、結果を確認した上で、今後の運用を検討する」


「ああ」


「それから」


 リリアが次の行を見る。


「クリスさんは、賞与につられて演習への参加を承諾しました」


「待て!」


 クリスが勢いよく振り向いた。


「そんなこと書くな!」


「でも、本当ですよね?」


「本当でも議事録に書くことじゃねぇ!」


 リリアがメリーを見る。


「正式な決定事項ではありませんので、なくても問題ありません」


「ほら!」


「分かりました」


 リリアは素直に、その部分へ線を引いた。


 クリスが安心したように息を吐く。


「あと」


「まだあるのか?」


「クリスさんは、二週間メリーさんの言うことを聞くように、お兄様から言われました」


「それは言ったな」


 レオンが頷く。


「その時、子供みたいでした」


「そんなこと書くな!」


 今度は大会議室のあちこちから笑い声が上がった。


「何でそこだけ感想なんだよ!」


「そう見えたので」


「議事録に感想入れるな!」


「はい」


 リリアは素直に頷き、そこにも線を引いた。


「じゃあ、決まりだ」


 レオンが言う。


「何か最後のせいで締まらなくなったぞ」


「決まったことは決まっただろ」


「そういう問題じゃねぇよ」


 レオンは卓の上に並んだ第一大隊と第四大隊の資料を見比べた。


 従来通りに戦えば、第一大隊が有利だろう。だからこそ、試す意味がある。


 二週間で第四大隊が天輪をどこまで身につけられるのか。そして、その戦術で戦力差をどこまで埋められるのか。


 二週間後には、少なくとも今よりは分かる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。