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やめたい騎士団長は、なぜか昇進し続ける  作者: サザルト
第2章 総騎士団副長編

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第2章幕間15 暗い廊下

――帝国暦三二二年・春中頃 ヴェリア帝国 東ロンバルディア騎士団領 総騎士団副長府――


■総騎士団副長府庁舎・二階廊下


 ライは、第一執務室を出た。


 手には一通の通達文。


 目的地は三階。


 仮眠室前だった。


 第一執務室は二階だ。


 一階分。


 階段を上がればいい。


 三階へ行けば、近衛中隊の隊員がいる。


 灯りもある。


 それだけ。


「……すぐだ」


 ライは、自分へ言い聞かせるように呟いた。


 廊下は暗かった。


 まるでこれから深い闇に足を踏み入れるようだった。


 頼りになるのは、窓から差し込む月明かりだけ。


「…………」


 ライは歩き出そうとして。


 ふと。


 壁を見る。


 そこには。


 鉄製の燭台受けがあった。


 壁から突き出すように取り付けられた、ろうそくを差し込むためのものだ。


「……こんなのあったんだ」


 いや。


 多分。


 前からあった。


 ライが気にしていなかっただけだ。


 普段。


 第一執務室にいるのは昼間だ。


 窓から光も入る。


 わざわざ壁の燭台受けを見ることなどなかった。


 よく見れば。


 少し先にもある。


 さらに向こうにも。


 おそらく。


 一階や。


 二階のほかの執務室周辺にも。


 同じようなものが設置されているのだろう。


 だが。


「……」


 ろうそくが灯っていない。


 一つも。


 燭台受けだけが。


 暗い壁から突き出している。


「あるじゃないですか……」


 ライは思わず呟いた。


「だったら点けておいてくださいよ……」


 設備はある。


 ろうそくを差せる場所もある。


 なのに。


 火がない。


 見た感じ。


 窓の外と大して変わらなかった。


 これでは。


 外の夜道とほとんど同じだ。


 昼間なら何度も歩いている廊下だった。


 それなのに。


 夜になるだけで。


 まるで別の場所のように見える。


 ライは歩き始めた。


 こつ。


 こつ。


 自分の足音だけが響く。


「……」


 前を見る。


 何もない。


 後ろは見ない。


 見る必要はない。


 誰もいないのだから。


 そう思いながら歩いていると。


 何か。


 別の音が聞こえたような気がした。


 ライの足が止まる。


「……?」


 静かだった。


 何も聞こえない。


 ライは、ゆっくり後ろを見る。


 暗い廊下が続いている。


 誰もいない。


「気のせいだ」


 すぐ前を向いた。


 こんなところで立ち止まっている方が怖い。


 三階まで行けばいい。


 すぐだ。


 ライは再び歩き出した。


 こつ。


 こつ。


 こつ。


 少しして。


 また。


 何かが聞こえた。


「……」


 ライは歩きながら、耳だけを後ろへ向ける。


 自分の足音。


 その後ろに。


 もう一つ。


 何かが。


 ついてきているような。


「……気のせい」


 少しだけ歩く速度を上げる。


 走らない。


 走ったら駄目だ。


 何となく。


 走ったら、本当に追いかけられるような気がした。


 だから。


 ほんの少しだけ早足になる。


 すると。


 後ろの音も。


 少し速くなったような気がした。


「……」


 ライの背中に冷たいものが走った。


 白い幽霊。


 七不思議。


 考えるな。


 考えたら駄目だ。


「何もいない」


 小さく呟く。


「何もいない」


 もう一度。


 ようやく階段が見えた。


「あった……」


 ライは少し安心した。


 ここを上がれば三階。


 灯りがある。


 人もいる。


 あと少し。


 階段へ足をかける。


 一段。


 二段。


 三段。


 暗い。


 段差が見えにくい。


 レオンに言われたことを思い出した。


 足元に気をつけて行け。


「……確かに危ないけど」


 そういう話ではなかった。


 だが。


 この暗さでは、走ることもできない。


 一段ずつ。


 足元を確かめながら上がる。


 その時。


 また。


 何かが聞こえた。


「……っ」


 ライの足が止まった。


 階段の途中で。


 じっとする。


 耳を澄ませる。


「……」


 何か。


 いるような気がする。


 階段の下。


 暗闇の中。


 音がする。


 誰かに。


 後ろから追われている。


 そんな気までしてきた。


「よく副長閣下、毎日こんなところ歩けるな……」


 ライは本気で思った。


 毎晩。


 一人で。


 灯りも持たず。


 こんな暗闇を普通に歩いている。


 理解できない。


「絶対おかしい……」


 ライは階段を上がった。


 さっきより少し速く。


 だが。


 転ばないように。


 一段ずつ確認しながら。


 ようやく踊り場へ出た。


 ライは振り返った。


 階段の下を見る。


「……」


 誰もいない。


 何もいない。


 暗い階段だけ。


「……やっぱり気のせいか」


 大きく息を吐いた。


 少しだけ。


 安心した。


 残り半分。


 階段を上がる。


 すると。


「あ……」


 上の方に。


 明かりが見えた。


 ろうそくの火。


 本物の灯りだった。


「明るい……!」


 一気に体が軽くなったような気がした。


 足も軽くなる。


 残りの階段を少し駆け足で上がった。


 ライは。


 これを渡せば。


 今日の仕事は終わりだ。


 そう思いながら。

 

 ほっとした気持ちで三階へ上がった。



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