外の話(修正版)
帝国暦三二〇年 春中頃 夕刻
東ロンバルディア帝国騎士団領
第七騎士団 本庁 一室
簡素な卓。余計な装飾はない。
「いいな、こういうのは」
皇太子アシュレイが椅子に腰掛けながら言う。
「ここにも無駄がない」
「削れるものは削っているからな」
「それがいい」
軽く笑う。
エリシアは控えめに立ち、
リリアは少し後ろで静かに控えている。
「さて」
アシュレイが視線をレオンへ向けた。
「今回、俺がここに来た理由だが」
「言わなくていい」
「言う」
(面倒だな)
「三つある」
指を一本立てる。
「一つ目。帝国と騎士団領の関係強化だ」
「表向きだな」
「表向きだが、嘘じゃない」
あっさりと言う。
「評判は帝都にも届いている」
「実際に見に来た」
「来て正解だった」
率直な評価。
エリシアの背筋がわずかに伸びる。
「二つ目」
今度は、少しだけ空気が変わる。
「これは、話してもいい」
レオンが眉をひそめる。
「……珍しいな」
「現実の話だからな」
軽く言う。
「騎士団領は強い」
「戦力としても、組織としてもな」
「だが、それだけじゃ足りない」
視線がまっすぐ向く。
「金だ」
短く、はっきりと。
部屋の空気が静かに締まる。
「帝国は広い」
「維持にも、拡張にも、金がかかる」
「騎士団領は?」
レオンが聞く。
「回っている」
即答だった。
「無駄がない」
「運用効率が高い」
「つまり――余剰が出る」
エリシアの目がわずかに細くなる。
(……見ている)
ただの視察ではない。
「帝国としては、その力を活かしたい」
「言い方を変えれば?」
レオンが淡々と返す。
「資金源か」
「そうとも言う」
否定しない。
「もちろん、取り上げる気はない」
「だが、流れは作る」
静かな言葉。
「……面倒だな」
「そうだな」
アシュレイはあっさり頷く。
「だが合理的だ」
レオンは何も言わない。
否定はできない。
それが現実だからだ。
「そして三つ目だが――」
空気が、わずかに変わる。
アシュレイは言葉を止める。
ほんの一瞬だけ、視線が動く。
レオンではない。
別の“何か”を見るように。
だが。
「……まあいい」
軽く笑う。
「これは今話しても意味がない」
「最初から言う気ないだろ」
「あるさ」
「ただ――」
「お前が嫌がるのは確実だからな」
さらりと言う。
だが、そこだけは軽くない。
レオンは目を細める。
「ろくでもないな」
「大抵そうだ」
否定しない。
「そのうちわかる」
それだけ。
それ以上は踏み込まない。
アシュレイは椅子から立ち上がる。
「一つ言えるのは」
扉に向かいながら。
「ここは面白い」
そして。
「お前もな、レオン」
軽く笑う。
その目は。
何かを見極める者のそれだった。
「やめてくれ」
レオンがぼそっと言う。
「そういうのは嫌いだ」
「知ってる」
「だから面白い」
そのまま出ていく。
扉が閉まる。
束の間の静寂。
レオンはゆっくりと息を吐く。
(……絶対ろくでもない)
確信に近い予感。
しかし。
(まあ、いい)
どうせ。
「選ぶのは俺だ」
小さく呟く。
それだけは、変わらない。




