第2章35話 続リリアの凄さ
――帝国暦三二一年・冬初め ヴェリア帝国・東ロンバルディア騎士団領 総騎士団副長府庁舎――
■総騎士団副長府庁舎・談話室
「では、まずノインさんの話からしましょう」
エリシアはそう言いかけて、少しだけ口を閉じた。
マリ、フィアナ、ココの三人は、そろってエリシアを見る。
だが、エリシアはすぐには本題へ入らなかった。
エリシアはそう言いかけて、ふと思い出したように三人を見た。
「その前に一つだけ。第一執務室のライ書記官も親衛隊員ですので、リリアさんについて軽く言うのは控えてください」
「……ライ書記官もですか」
マリは小さく息を呑んだ。
小柄で、どこかおどおどした印象のある書記官まで親衛隊員だと聞くと、第一執務室も油断できない場所に思えてくる。
「はい。では、改めてノインさんの話をしましょう」
「ノインさん?」
マリが聞き返す。
「今は第十一騎士団長を務めている方です」
「ああ、聞いたことがあります」
マリは頷いた。
真面目で、堅く、職務に忠実。
簡単に周囲へ流されるような人ではない。
そんな印象の人物である。
「ただ、これはノインさんがまだ第七騎士団の副団長だった頃の話です」
「副団長だった頃ですか」
「はい。その頃から、ノインさんには騎士団長になるよう、何度も話が来ていました」
「それを断っていたんですか?」
「はい。何度言われても、首を縦に振りませんでした」
マリは少しだけ首を傾げた。
「なりたくなかったんですかね」
「そういう理由も少しはあったかもしれません。ですが、一番大きな理由は別です」
「別?」
ココが尋ねた。
エリシアは少しだけ間を置いてから答えた。
「リリアさんから離れたくなかったからです」
談話室が静まり返った。
マリは何度か瞬きをした。
フィアナとココは、なぜか納得したような顔をしている。
「どうして、そこまで離れたくなかったんですか?」
マリが思わず聞く。
「仲が良かったようです」
「仲が良かった?」
「はい。リリアさんが毎日のように、ノインさんへ話しかけていたそうです」
エリシアは淡々と説明する。
「お疲れではありませんか、とか」
「今日もありがとうございます、とか」
「無理はしないでくださいね、とか」
「そういう優しい言葉を、ずっとかけていたらしいです」
「……それは」
フィアナが小さく呟いた。
「離れたくなくなりますね」
「分かります」
ココも深く頷いた。
「私も分かります」
「お二人は、すぐ分かるんですね」
マリが言うと、二人は同時に頷いた。
「分かります」
「リリアさんですから」
マリは少しだけ遠い目になった。
二人は、すでにかなりリリアに近い側の感覚で話している。
だが、今の説明を聞くと、ノインの気持ちもまったく分からないわけではなかった。
毎日のように柔らかい声で気遣われる。
真面目に働いていることを見てもらえる。
無理をしていないかと心配してもらえる。
そういう相手から離れたくない。
それは、確かにあり得ることだった。
「ノインさんは、本当に頑固でした」
エリシアは続ける。
「周囲の説得は、ほとんど聞きません。騎士団長になるべきだと言われても、今の場所に残ると言って譲りませんでした」
「そんなにですか」
「そんなにです」
「エリシアさんも説得したんですか?」
「二回ほど行きました」
「どうでした?」
「まったく相手にしてもらえませんでした」
エリシアはあっさり言った。
「寮にも行きました。こちらもかなり真剣に頼みました。けれど、駄目でした」
「エリシアさんが行っても駄目だったんですか」
「駄目でした」
エリシアは悔しそうではなかった。
ただ、事実を述べている。
だからこそ、マリには意外だった。
エリシアは強い。
職務にも厳しい。
必要なことは必要だと押し通す力がある。
そのエリシアでも、動かせなかった相手である。
「それで、どうなったんですか」
マリが尋ねる。
エリシアは、少しだけ視線を横へ流した。
「最終的に、ノインさんが何に弱いか分かっていたので、リリアさんにお願いしました」
三人が同時に息を呑んだ。
「リリアさんに?」
「はい」
「どうなったんですか」
「一瞬でした」
エリシアは真顔で言った。
「一瞬」
「はい。一瞬です」
フィアナとココが、少し前のめりになる。
マリも思わず聞き入った。
「ノインさんは堅物です。自分の道は自分で決めるという方です。周囲の言葉に簡単には動きません」
「はい」
「職務の必要性を説いても、責任を説いても、ほとんど揺らぎませんでした」
「ですが、リリアさんが行きました」
「はい」
「柔らかい物腰で、まずはいつものように挨拶しました」
それから、ノインがどれだけ頼りになる人物か。
周囲から、どれほど必要とされているか。
騎士団長になれば、どれだけ多くの者を支えられるか。
リリアは、一つずつ丁寧に伝えた。
「ノインさんは最初、いつもどおりでした」
姿勢も崩さず、表情もほとんど変わらない。
だが、リリアが話しかけているうちに、少しずつ返事が柔らかくなっていった。
「最初は『いえ』でした」
「次に『ですが』になりました」
「その次は『リリア様がそうおっしゃるなら』になりました」
マリは唖然とした。
フィアナとココは、小さく息を吐く。
「それは、もう説得されていますね」
フィアナが言った。
「説得されています」
ココも頷く。
「最後には、完全に折れました」
エリシアは淡々と言った。
「私たちが何度説得しても駄目だったのですが、リリアさんが行くと一瞬でした」
「すごいですね」
マリは素直に言った。
それは、確かにすごい。
説得というより、空気を変えている。
相手の硬い部分を無理に折るのではなく、本人が自然と頷くように持っていく。
力で押したのではない。
理屈で詰めたのでもない。
リリアという存在そのものが、相手の防御を緩めたのだ。
「すごいのは、それだけではありません」
エリシアは声を落とした。
フィアナとココが身を乗り出す。
「これは内緒です」
「はい」
「言いません」
「絶対に言いません」
三人がそろって頷く。
エリシアは周囲を一度だけ確認した。
「今のノインさんの執務机の引き出しには、リリアさんの姿絵が入っているそうです」
三人は固まった。
「……姿絵、ですか」
「はい」
「引き出しに」
「はい」
「ノインさんが」
「はい」
エリシアは淡々と頷く。
「職務中、疲れた時にそれを立てかけて、見ながら仕事をしているらしいです」
「想像がつきません」
マリは正直に言った。
「私も最初に聞いた時は、想像がつきませんでした」
エリシアが答える。
フィアナは胸の前で手を握った。
「でも、分かります」
「分かるんですか」
「はい。姿絵があれば、見てしまうと思います」
ココも真剣に頷いた。
「私も分かります」
「お二人は、だいぶ分かる側ですね」
マリが言うと、二人は否定しなかった。
むしろ、少し誇らしそうだった。
「それだけではありません」
エリシアはさらに続ける。
「まだあるんですか」
「あります」
マリは少し姿勢を正した。
ここまで来ると、聞かないわけにはいかない。
「以前、団長が新しい騎士団、第十二騎士団を任されることになった時の話です」
ココが小さく目を瞬かせた。
「私のいた騎士団ですね」
「そうです」
「それで、レオン団長が怒っていたんですか?」
「はい。あの時、団長はかなり怒っていました」
「怒っていたんですか?」
「怒っていました」
騙された。
押しつけられた。
聞いていない。
レオンは、そう言っていた。
マリには少し想像できた。
今のレオンは副長府の中心で、何だかんだ言いながら仕事を回している。
だが、本人がそういう立場を望んでいるかと言われれば、明らかに違う。
「騎士団を任されることに不満で、徽章をつけ式典に出ることも当然嫌がっていました」
「徽章ですか?」
「はい。絶対につけないと仰っていました」
エリシアはそこで少しだけ息をついた。
「あの時、団長は本気でした」
「出ない」
「つけない」
「行かない」
「山の方へ逃げる」
「そういうことまで言っていました」
「山へ」
ココが呟いた。
「はい。私とメリーさんも巻き込まれかけました」
「巻き込まれかけたんですか?」
「逃げるなら、私とメリーさんも一緒という話になっていました」
マリは何とも言えない顔になった。
フィアナとココも同じ顔をしている。
「それは……大変ですね」
「大変でした」
エリシアは即答した。
「そこに、リリアさんが来ました」
三人が黙った。
話の流れが分かってきたからである。
「リリアさんは、レオン様の徽章を見て、まず褒めました」
「褒めたんですか」
「はい。とても似合うと思います、と」
「お兄様がつけたら、きっと素敵です、と」
エリシアの声音が少し柔らかくなる。
「それから、自分の兄がすごいから騎士団を任されるのだと話しました」
レオンなら、きっと大丈夫。
皆も頼りにしている。
兄がいてくれるなら安心できる。
リリアは、そういうことを何の疑いもなく口にした。
「それで……」
マリは結果を聞く前に、何となく分かってしまった。
エリシアは頷く。
「十分ほどです」
「十分」
「はい。十分ほどで、団長は徽章をつけていました」
沈黙。
談話室の中で、湯気だけがゆっくりと揺れた。
「あれだけ、絶対につけないと拒んでいたのに」
エリシアは遠い目をした。
「リリアさんに褒められ、頼られ、期待されると、あっという間でした」
「……すごいですね」
マリは、同じ言葉しか出てこなかった。
「あの説得がなければ、レオン様は第十二騎士団長になっていなかったかもしれません」
エリシアは、そこでココへ視線を向ける。
「そうなると、ココさんは今、ここにいなかったかもしれません」
ココは、少しだけ目を見開いた。
「……そうですね」
その言葉で、談話室の空気が少し変わった。
昔の話だったはずのものが、急に今の自分たちへつながった。
リリアは、相手を無理やり動かしているわけではない。
命令しているわけでもない。
正論をぶつけているわけでもない。
ただ、相手が自分の中に持っている柔らかい部分を、迷いなく信じてしまう。
その信じ方が、相手を逃げられなくしている。
「その時、私は思いました」
エリシアが言った。
「どうしてリリアさんは、書類仕事なんかに収まっているのでしょうね、と」
マリは少し目を瞬かせた。
「書類仕事では、駄目なんですか?」
「駄目ではありません」
エリシアは静かに答える。
「仕事も丁寧ですし、第一執務室にいてくださるのは助かっています」
リリアは、決して仕事ができないわけではない。
書類を確認し、必要な者へ回し、誰かが困っていれば声をかける。
第一執務室にとって、必要な人物である。
「ですが、人に会わせれば、あれほど頑固な方でも動かせます」
「はい」
「帝都との交渉や、他国との外交に関わっていただいた方が、もっと大きな成果を出せるのではないかと思うことがあります」
「外交ですか」
「はい」
エリシアは、少しだけ考えるように目を細めた。
「誰かを脅すわけでもありません」
「難しい条件を突きつけるわけでもありません」
「ただ相手を褒め、必要としていることを伝え、迷いなく信じる」
「それだけで、人が動いてしまいます」
本人には、その自覚がない。
誰かを動かそうとしているわけでもない。
ただ相手を信じ、必要だと伝えているだけである。
それでも、頑なだった人間まで動いてしまう。
「少なくとも、書類を整理しているだけでは、少しもったいない方だと思います」
エリシアは本気で不思議そうに言った。
「どうして、あの方は今も普通に書記官をしているのでしょうね」
「本人が、書記官でいたいからではないでしょうか」
マリが言うと、エリシアは少しだけ黙った。
「おそらく、そうなのでしょうね」
リリアは、地位を求めているわけではない。
大きな仕事を任されたいと望んでいるわけでもない。
ただ、自分にできることをしている。
だからこそ、周囲が勝手にそれ以上のものを見つけてしまうのかもしれなかった。
「リリアさんの凄さは、一言では表せません」
エリシアは続けた。
「容姿が整っていること」
「物腰が柔らかいこと」
「相手との距離が近いこと」
「誰にでも、誤解を与えかねないほどの優しさを向けてしまうこと」
「妹のように見えて、時には姉のように相手を包み込むこと」
「そういうものが、全部合わさっています」
フィアナとココが、深く頷いた。
「分かります」
「すごく分かります」
エリシアは二人を見て、少しだけ苦笑する。
「あなたたちは、もうかなり魅了されている側ですね」
二人は否定しなかった。
「はい」
「そうだと思います」
マリは二人を見て、少しだけ納得した。
この二人がリリアの話になると、急に真剣になる理由が分かった気がする。
リリアの近くにいる者は、細かい理屈を必要としなくなるのだ。
そこにいる。
笑ってくれる。
声をかけてくれる。
それだけで十分になってしまう。
「クリスさんが怒っている時も、何度か見たことがあります」
エリシアはさらに続ける。
「リリアさんが話しかけると、しばらくして機嫌が直っていることがあります」
「クリスさんもですか?」
マリが聞く。
「はい。もちろん、いつでもというわけではありません」
それでも、リリアが間に入ると、明らかに空気が柔らかくなることがある。
「本人にそのつもりがなくても、職場へ与えている影響は大きいです」
「職場にも、ですか?」
「はい」
疲れている者が、もう少しだけ頑張ろうとする。
苛立っている者が、少しだけ言葉を選ぶ。
殺伐とした空気が、完全には消えなくても、わずかに薄まる。
誰かがリリアを守ろうとして、結果的に部署全体の規律が保たれることもある。
マリは、ゆっくりと頷いた。
それなら分かる。
リリアは命令を出していない。
制度を作っているわけでもない。
だが、そこにいるだけで、人の行動が変わっている。
それは確かに、ただ可愛いだけではない。
「副長府にとっても、リリアさんがいる意味は大きいです」
エリシアは真面目な顔で言った。
「もちろん、問題もあります」
親衛隊は過剰である。
周囲が甘くなりすぎることもある。
リリア自身も、距離感が近すぎて誤解を生むことがある。
「ですが、それを差し引いても、リリアさんがいることで救われている人間は多いです」
その言葉は、談話室に静かに落ちた。
マリは、リリアの顔を思い浮かべる。
柔らかい金髪。
穏やかな笑み。
何かを頼む時の、少し申し訳なさそうな顔。
褒める時の、疑いのない声。
あれを向けられれば、確かに断りづらい。
怒り続けるのも難しい。
逃げようとしていた人間でも、少しだけ立ち止まってしまう。
そして、周囲はそれを守りたくなる。
「ですが」
エリシアは、そこで少しだけ声を落とした。
「私が思う、リリアさんの一番すごいところは、そこではありません」
「そこではないんですか?」
マリが聞き返す。
「はい」
エリシアは静かに頷いた。
「これだけ親衛隊がいて、皆から可愛がられて、守られて、特別に扱われているのに、それを鼻にかけないところです」
三人は黙った。
「リリアさんは、絶対に威張りません」
自分が特別に扱われているからといって、誰かを下に見ることもない。
親衛隊へ命令し、周囲を従わせようともしない。
何かをしてもらって当然という顔もしない。
「それが、一番すごいところだと思います」
エリシアの声は、少しだけ柔らかかった。
フィアナとココは、すぐに頷く。
「それは……分かります」
「リリアさんには、そういうところはまったくないですね」
マリも、少し遅れて頷いた。
「確かに、ないですね」
エリシアは三人を見る。
「あなたたちだったら、どうします?」
「え?」
「もし、自分の親衛隊がいて、周りから姫様のように扱われて、少し歩くだけで道を空けられて、誰かが常に自分を守ろうとしてくれたら」
エリシアは淡々と尋ねた。
「少しは威張ったり、鼻にかけたりしませんか」
三人は黙った。
しない、とすぐには言えなかった。
フィアナが、少し困ったように視線を落とす。
「私は……少しくらいは、してしまうかもしれません」
ココも小さく頷いた。
「私も、絶対にしないとは言い切れません」
マリも、ゆっくりと息を吐いた。
「私もです。たぶん、少しは態度に出ると思います」
自分を好きな者がいる。
守ってくれる者がいる。
特別に扱ってくれる者がいる。
それが毎日のように続けば、人はどうしても慣れてしまう。
慣れれば、当たり前だと思ってしまうかもしれない。
だが、リリアにはそれがなかった。
少なくとも、マリが見てきたリリアは、誰かに何かをしてもらった時、いつもきちんと礼を言っている。
当然のような顔はしない。
姫様と呼ばれることにも、どこか困ったような、照れたような顔をしていた。
「リリアさんには、そういうところがまったくないですよね」
マリが言うと、フィアナとココも頷いた。
「ないです」
「まったくないです」
「だからです」
エリシアは言った。
「だからこそ、リリアさんには、ああいうファンのような親衛隊が増えていくんです」
「ファンのような親衛隊」
「はい」
守りたい。
支えたい。
近くで働きたい。
そう思う人間が増えていく。
しかも本人が、それを鼻にかけない。
だから、さらに人が集まる。
エリシアは少しだけ苦笑した。
「正直、私の予想では、今後ますます親衛隊の数は増えていくと思いますよ」
「まだ増えるんですか」
マリが思わず言った。
「増えると思います」
「もう十分多いのでは」
「増えるでしょうね」
エリシアは、あまり嬉しそうではなかった。
だが、否定もできないという顔だった。
フィアナとココは顔を見合わせる。
「でも、分かります」
「分かってしまいます」
「分かってしまうんですね」
マリが言うと、二人は真剣に頷いた。
「はい」
「リリアさんですから」
マリは何も言えなくなった。
エリシアは、手元の書類を持ち直した。
「さて。私はそろそろ戻ります」
「あ、まだお仕事の途中でしたね」
「はい。かなり途中です」
「すみません。長く引き止めてしまって」
「構いません。必要な話でしたから」
エリシアはそう言って、談話室の入り口へ向かう。
出ていく直前、もう一度だけ三人を振り返った。
「リリアさんの近くにいるなら、親衛隊には気をつけてください」
「はい」
「それから、リリアさん本人は、よく見ておくといいです」
「本人を、ですか」
「はい」
エリシアは静かに頷いた。
「あの方の凄さは、説明されるより、見ていた方が分かります」
エリシアはそう言い残し、談話室を出ていった。
その背中が廊下の向こうへ消えるまで、三人はしばらく黙っていた。
最初に口を開いたのは、ココだった。
「……親衛隊、まだ増えるんですね」
「そこですか」
マリが言うと、ココは真剣に頷いた。
「はい。増えると思います」
フィアナも頷く。
「私も、増えると思います」
「お二人まで」
「でも、リリアさんですから」
「姫様ですから」
マリは額に手を当てた。
けれど、今度は完全には否定できなかった。
ノインの話。
レオンの話。
クリスの機嫌が直る話。
職場全体の空気が変わる話。
そして、これほど人に囲まれても、まったく威張らない話。
聞けば聞くほど、リリアという人は不思議だった。
可愛いだけではない。
優しいだけでもない。
ただ守られているだけの人でもない。
周囲が勝手に集まり、勝手に守り、勝手に動き出す。
そして本人は、それを当然だと思わない。
マリは、冷めかけた茶杯を手に取った。
「少し、分かった気がします」
小さく呟くと、フィアナとココがこちらを見る。
「リリアさんの凄さですか?」
「はい。まだ、少しだけですけど」
マリは談話室の入り口へ視線を向けた。
リリアの凄さ。
それは、説明されて終わるものではない。
近くで見ているうちに、少しずつ分かっていくものなのだ。
マリはそう思いながら、冷めかけた茶を一口飲んだ。




