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やめたい騎士団長は、なぜか昇進し続ける  作者: サザルト
第1章 騎士団長編

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182/253

副官という席

 ――帝国暦三二一年・秋終盤東ロンバルディア帝国騎士団領 総庁・総長執務室――


 あの夜から、数日が過ぎた。


 総長が替わった。

 総騎士団副長府が発足した。


 イリスは首席書記官となった。

 レオンは総騎士団副長となった。


 本来なら、新しい体制の始まりとして、多くの者が慌ただしくも前を向く時期だった。


 けれど総庁の空気は、まだ明るくなりきっていなかった。


 エリシア・グランフェルトの軍令違反。

 団長名義の委任状偽造。

 第六中隊の領外出動。


 イリス皇女殿下の収容。

 その責任と処分。


 監察課の最終報告書。

 軍務審問会の議事録。

 関係者の証言記録。

 そして、総長裁定案。


 それらが、グラナート・グランフェルトの机の上に置かれていた。新総長となって最初に正式裁定を下す案件が、自分の娘の処分。


 皮肉としては、かなり出来が悪い。だが、出来が悪いからといって、目を逸らせるものではなかった。


 ■総長執務室


 呼ばれた者たちは、暫定措置が告げられた夜とほとんど同じだった。


 レオン。

 リリア。

 メリー。

 イリス。


 クリス。

 シエラ。

 そして、監視付き待機へ変更されていた、エリシア。


 エリシアは、部屋に入ると静かに頭を下げた。


「ご迷惑をおかけしました」


 声は落ち着いている。

 顔色は少し悪い。

 それでも姿勢は崩れていなかった。


 レオンは、その姿を見た。

 何も言わない。


 言うべきことは山ほどある。

 ただ、今ではない。

 グラナートが口を開いた。


「全員、座れ」


 短い命令。

 今回は、レオンも最初から座った。

 クリスが横で小さく呟く。


「今日は聞き分けいいな」

「今はそういう場ではない」


「はいはい」

 シエラが静かに記録を準備する。


 リリアはエリシアを心配そうに見ている。

 メリーは表情を崩さない。


 ■総長執務室

 グラナートは、机の上の書類を一枚取った。


「監察課の最終報告、および軍務審問会の結論が出た」


 部屋の空気が固まる。


「先に確認しておく」

 グラナートの声は硬かった。


「今回の件は、軍法会議へは上げない」


 リリアが、わずかに息を呑む。

 クリスも、目を伏せた。

 エリシアは動かない。


「理由は三つ」

 グラナートは書類を置く。


「第一に、イリス殿下の収容そのものは救護行動であること」


「第二に、第六中隊の現場行動は統制され、不要な戦闘・略奪・越権行為は確認されていないこと」


「第三に、関係者の責任は一人に集中せず、複数の判断と行動が重なって発生した案件であること」


 淡々とした声だった。


「監察課の最終報告も、軍務審問会も、その点については一致している」


 リリアの肩から、ほんの少しだけ力が抜ける。 だが、安心するには早かった。


 グラナートの表情は緩まない。


「だが、軍法会議へ上げないことと、処分が軽いことは同じではない」


 その言葉で、部屋の空気がまた沈んだ。


「委任状偽造は事実」

「命令系統の逸脱も事実」

「指揮官への報告遅延も事実」


「皇太子殿下からの書状の秘匿も事実」

 グラナートは全員を見た。


「よって、本日、総長裁定として正式処分を確定する」


 誰も口を挟まなかった。

 これはもう、暫定措置ではない。

 正式な裁定だった。


 ■総長執務室


「エリシア・グランフェルト」

「はい」

 エリシアが顔を上げる。


「委任状偽造は事実」

「はい」


「第六中隊を領外へ動かす根拠を作ったことも事実」

「はい」


「団長への報告を経ず、命令系統を乱したことも事実」

「はい」


「副官として、その重さを理解していた」

「はい」


「よって、無処分にはできない」

「承知しています」

 エリシアは静かに答えた。


 逃げない。

 そう決めている顔だった。


 リリアの手が、膝の上でぎゅっと握られる。グラナートは続ける。


「ただし、イリス殿下の収容は救護行動である」


「第六中隊の現場行動は、クリス中隊長の判断により適切に制限されていた」


「関係者の責任は分散している」


「シエラの報告書により、救護行動と軍令違反は切り分けられた」


「そのため、禁固刑相当にはしない」


 リリアが、わずかに息を吐いた。

 クリスも、目を伏せる。

 だが、安心するには早かった。

 グラナートの声は、まだ硬い。


「エリシア・グランフェルト」

「はい」


「正式戒告」

「一定期間の職務停止」

「階級一段階降格」


 部屋が、静まり返った。

 降格。


 その言葉が落ちた瞬間、リリアの顔から血の気が引いた。


 メリーも、わずかに目を伏せる。

 イリスは唇を結んだ。

 クリスは何も言わない。


 分かっていた。

 可能性としては。

 だが、実際に言葉になると重かった。


「これにより」

 グラナートは続ける。


「旧制度上の副官資格を満たさない可能性がある」


 エリシアの表情は変わらなかった。

 ただ、指先だけが少し動いた。


「承知しました」

 静かな声だった。


「私は、副官ではいられないのですね」


 その一言で、リリアが耐えきれずに声を上げかけた。


 だが、エリシアが首を横に振る。

 止めた。

 自分で受けるつもりだった。


 副官でなくなることも。

 レオンの隣から外れることも。


 罰として、当然のように。


 ■総長執務室


 沈黙の中。

 レオンが口を開いた。


「問題ありません」


 全員が、レオンを見た。

 エリシアも。

 グラナートも。

 クリスが眉をひそめる。


「問題ないって、お前……」

 レオンは、淡々と言った。


「総騎士団副長府に、副官職は置きません」


 今度こそ、部屋の空気が止まった。

 リリアが瞬きをする。


「え……?」


 メリーは一瞬だけ目を上げた。

 イリスは、興味深そうにレオンを見る。


 シエラは記録の手を止めない。

 クリスは口を開けたまま固まった。


「待て」

 クリスが言う。


「今、何て言った」

「副長府に副官職は置かない」


「今思いついたのか?」

「違う」


「本当か?」

「本当だ」


 レオンは、少し嫌そうな顔で資料を一枚出した。メリーが、静かに補足する。


「副長府発足時の組織案です」


「補佐機能の分割について、以前から検討されていました」


「……あったのかよ」


 クリスが呟く。

 レオンは資料を広げた。


「旧来の副官職は、一人の指揮官に対して、部隊管理、情報伝達、事務処理、補給、訓練企画、指揮統制補助をまとめて担う」


「小規模なら機能する」

「だが、総騎士団副長府では合わない」


 声はいつも通り。

 淡々としている。


「副長府は第一執務室、第二執務室、第三執務室を持つ」


「ヴァイス騎士団は旧第七、旧第十、旧第十二を統合した大規模組織になる」


「さらに工部分室、輜重補給部分室、人事部、統括管理部との連携もある」


「これを副官一人に寄せるのは非効率だ」

 レオンは資料を指で示す。


「よって、副官職を廃止する」

「補佐機能は分割する」


「第一執務室は首席書記官を中心に、予定管理、来客対応、対外連絡、文書優先順位、総庁および帝都との調整を行う」


 イリスが静かに頷く。

 自分の仕事だ。


「第二執務室は軍務補佐官を中心に、ヴァイス騎士団の大隊運用、訓練計画、作戦補助、軍事助言を行う」


 エリシアの目が、わずかに揺れた。


「第三執務室は工部、輜重補給、資源、情報との連絡調整を担う」


「つまり」

 レオンは、エリシアを見る。


「エリシアは、副官ではない」

 静かな声だった。


「第二執務室付軍務補佐官とする」


 ■総長執務室


 エリシアは、すぐには答えられなかった。

 副官ではない。

 その言葉は、痛かった。


 ずっと、レオンの副官として隣にいた。

 自分はその場所に立つのだと思っていた。


 そこに誇りがあった。

 誰にも譲りたくない気持ちもあった。

 それを失った。


 だが、第二執務室付軍務補佐官。

 軍務。

 補佐。


 レオンの軍事面を支える役目。

 完全に外されたわけではない。


 席は、まだある。

 違う形で。


「……私は」

 エリシアの声が、少しだけ低くなる。


「副官では、なくなるのですね」

「そうだ」

 レオンは即答した。


「処分は処分だ」


「資格を失うなら、副官には置かない」


 その言葉は厳しい。

 甘くない。

 だが、そこで終わらなかった。


「だが、軍務能力まで失ったわけではない」


「第二執務室に席はある」


 エリシアの目が、ほんの少しだけ揺れる。

 リリアは、泣きそうな顔で口元を押さえた。


 メリーは静かに目を伏せる。

 イリスは、少しだけ微笑んだ。

 クリスは天井を見た。


「お前、ほんとそういうところあるよな……」


「何がだ」


「副官に戻せないなら、副官をなくすって発想だよ」


「必要な機能に合わせて役職を整理しただけだ」


「結果的に救ってるだろ」

「必要な人材を適切な場所に置いただけだ」


「言い方」

 クリスは呆れたように言う。

 だが、その顔には少しだけ安堵があった。


 ■総長執務室


 グラナートは、黙って資料を見ていた。

 やがて、低く言う。


「総騎士団副長府の人事権は、発足日以降、総騎士団副長にある」

「はい」

 レオンが答える。


「副官職の廃止も、副長府内部の役職整理として扱うのだな」

「はい」


「エリシアの処分を無効化するためではないな」


「違います」

 レオンは即答した。


「処分は受けさせます」

「副官職も解きます」

「職務停止期間も従わせます」

「降格も受け入れます」


「その上で、職務停止明けに第二執務室付軍務補佐官として再配置します」


 グラナートはエリシアを見る。


「エリシア」

「はい」


「これは救済ではない」

「承知しています」

「副官という席は失う」

「はい」


「軍務補佐官は、旧副官と同じではない」

「はい」


「軍事面で副長を補佐する専門職だ」

「はい」


「それを理解して受けるか」

 エリシアは、ゆっくりと息を吸った。

 そして、深く頭を下げる。


「受けます」

 声は少し震えていた。

 それでも、はっきりしていた。


「私は処分を受けます」

「副官ではなくなります」

「それでも」


「軍務補佐官として、第二執務室で職務を果たします」

 レオンは静かに頷いた。


「そうしろ」

 短い言葉。

 それだけだった。


 けれど、エリシアには十分だった。


 ■総長執務室


 リリアが、ぽつりと言った。


「エリシアさん……よかった……」

「よくはありません」

 エリシアが静かに返す。


「私は処分を受けます」

「はい……」


「副官でもなくなります」

「でも……」


 リリアは言葉を詰まらせる。

 エリシアは少しだけ表情を和らげた。


「でも、戻れます」

 その言葉に、リリアの目に涙が浮かんだ。


「はい」

 イリスが静かに口を開く。


「第一執務室は、私が引き継ぎます」


「スケジュール管理、来客対応、文書調整、対外連絡」


「軍事関係を除く秘書官的な仕事は、私が担います」


 エリシアはイリスを見る。


「お願いします、イリス殿下」

「はい」


「ただし、団長を過度に混乱させないでください」

「努力します」


「実行してください」

「……はい」


 少しだけ、以前の空気が戻った。

 ほんの少し。

 メリーが資料を見ながら言う。


「副官職廃止に伴い、既存の副官業務の再配分が必要です」


「第一執務室、第二執務室、第三執務室の職務規程も修正します」


「各大隊長との連絡系統も再設定します」


「……仕事が増えたな」

 レオンが低く言う。

 クリスが呆れる。


「お前が増やしたんだろ」

「必要だった」


「それはそうだけどな」

 グラナートが軽く机を叩いた。


「話を戻す」

 全員が姿勢を正す。


「処分内容を確定する」


 ■総長執務室


 グラナートは書類を読み上げた。

「総長裁定として、正式処分を告げる」


 その言葉に、全員の背筋が伸びた。


「エリシア・グランフェルト」


「正式戒告」

「階級一段階降格」

「旧第七騎士団副官職を解く」

「一定期間の職務停止」


「職務停止明け、総騎士団副長府第二執務室付軍務補佐官として再配置」

「ただし、当面は監督付き」

 エリシアが深く頭を下げる。


「承知しました」


「リリア・ヴァイス」


「書状取扱い業務の一時停止」

「監督付き業務」

「正式戒告」

「はい」

 リリアが頭を下げる。


「メリエラ・エイゼン」


「正式戒告」

「統括管理官補佐としての一部権限を一定期間制限」

「副長府移行業務には、監督付きで継続参加」


「承知しました」


「クリス・ラングレー」


「正式戒告」

「第六中隊長としての職務は継続」

「ただし、領外行動に関する報告義務を再教育」


「はい」


「シエラ」


「報告延期について注意処分」

「報告書作成の功績により、追加処分なし」


「承知しました」


「イリス殿下」


「首席書記官として正式注意」

「今後、任官および人事に関する手続きの軽視を禁ずる」


「承知しました」


 グラナートは書類を置いた。


「以上をもって、本件の正式処分とする」

 誰もすぐには動かなかった。


「なお」

 グラナートは続ける。


「これは情による減免ではない」

 低い声だった。


「救護行動を救護行動として評価し、違反を違反として処分した結果だ」


「不服がある者は、所定の手続きにより異議を申し立てることを認める」

 誰も言わなかった。


 エリシアも。

 リリアも。

 イリスも。

 レオンも。


 その裁定は軽くなかった。

 けれど、不当に重くもなかった。

 グラナートは最後に言った。


「本件は、これで確定する」

 リリアが、少しだけ涙をこらえる。


 重い処分だった。

 軽くはない。

 それでも。

 誰も失われなかった。


 エリシアは副官ではなくなった。

 けれど、第二執務室に席が残った。

 それは救いであり、罰でもあった。


 ■総長執務室


 グラナートはレオンを見る。


「総騎士団副長」

「はい」


「副官職の廃止は、正式な組織改編として提出しろ」


「今日中に出します」

「今考えたものではないだろうな」


「以前から必要でした」

「なら、資料は揃っているな」


「メリーが持っています」

 メリーが静かに頷く。


「あります」

 クリスが思わず言う。


「ほんとにあるのかよ」

「あります」


「怖ぇな、お前ら」

 シエラが補足する。


「組織改革としては妥当です」


「一人の副官に補佐機能を集中させる体制は、新副長府規模では不適切です」


「第一、第二、第三執務室への分散は合理的です」


 グラナートは頷く。


「よろしい」

「ただし」


「この改編が、エリシア処分の抜け道だと見られないようにしろ」

 レオンは頷いた。


「処分と組織改編は分けます」

「エリシアは副官ではなくなる」


「軍務補佐官に再配置するのは、職務停止明けです」


「分かっているならいい」

 グラナートはエリシアを見る。


「娘としてではなく、一人の騎士として言う」

 エリシアが顔を上げる。


「二度目はない」

 重い声だった。

 エリシアは、深く頭を下げる。


「はい」

「肝に銘じます」


 ■総庁・廊下


 総長執務室を出た時。

 廊下の空気は、少しだけ冷たかった。


 秋の朝だった。

 リリアは、エリシアのそばへ駆け寄る。


「エリシアさん」

「リリアさん」


「あの……」

 言いたいことが多すぎた。


 ごめんなさい。

 よかった。

 大丈夫ですか。


 全部が混ざって、言葉にならない。

 エリシアは少しだけ目を伏せる。


「私は、大丈夫です」

「でも……副官では……」

「はい」


「副官ではなくなりました」

 リリアの目に涙が浮かぶ。

 エリシアは、静かに続ける。


「ですが、第二執務室に席をいただきました」


「軍務補佐官として」

「……はい」


「そこから、やり直します」

 リリアは頷いた。


 涙をこぼさないように。

 必死に。

 イリスもそばへ来る。


「エリシアさん」

「イリス殿下」


「第一執務室は、お任せください」

「お願いします」


「軍事関係は、頼りにしています」

「はい」


 少しだけ、新しい形が見えた。

 今までと同じではない。

 元には戻らない。


 けれど、終わりでもない。


 ■総庁・廊下


 クリスはレオンの横に並んだ。


「お前、本当に副官なくすんだな」

「そうだ」


「エリシアのためか?」

「副長府のためだ」


「半分くらいエリシアのためだろ」


「必要な人材を必要な位置に置いただけだ」

「そういう言い方、ほんとお前だな」

 クリスは呆れる。


「で、俺の正式戒告は?」


「自業自得だ」

「分かってるよ」


「後で説教もある」

「まだあるのかよ」


「当然だ」

 クリスは天井を見た。


「今日、長いな」

「始まったばかりだ」


「最悪だ」

 その横で、シエラが静かに言う。


「説教内容も記録しましょうか」

「やめろ」


「今後の再発防止に役立つかもしれません」

「絶対やめろ」


 リリアが少しだけ笑った。

 ようやく。


 本当に少しだけ。

 笑えた。


 ■第七騎士団 本庁・執務室


 その日の昼前。


 レオンの机には、新しい組織改編案が置かれた。総騎士団副長府における補佐機能再編について。


 旧副官職の廃止。


 首席書記官による第一執務室統括。

 軍務補佐官による第二執務室軍事補佐。

 第三執務室による技術・補給・情報連絡。


 副官という席は、消える。

 その代わり、仕事は分けられる。


 責任も分けられる。一人の隣に、すべてを背負わせないために。


 エリシアは、その書類を見ていた。

 自分の席が消える書類。

 同時に、新しい席が作られる書類。


 胸が痛む。

 けれど、目を逸らさなかった。


「エリシア」

 レオンが呼ぶ。


 エリシアは顔を上げる。いつものように。けれど、今はもう少しだけ立場が変わっていた。


「はい、副長閣下」

 レオンが嫌そうな顔をした。


「長い」

「正式な呼称です」


「では、閣下」

「慣れない」

 近くにいたクリスが吹き出しかけた。


「お前、閣下って呼ばれる顔してないもんな」


「どういう意味だ」

「そのままの意味だ」


 エリシアは静かに続ける。


「ですが、公式の場では必要になります」

「それは仕方ない」

 レオンは少し考えた。


「外では、副長閣下か閣下でいい」

「はい」


「多少知っている相手は、副長でいい」

「はい」

「ここでは」


「呼びやすい名でいい」

 エリシアは目を伏せる。


「……団長でも、よろしいのですか」

「お前はそれ以外、知らないだろう」


「……はい」

「なら、それでいい」

 短い言葉だった。


 だが、エリシアには十分だった。

 副官ではなくなった。

 役職も変わった。

 席も変わった。


 けれど。

 その呼び方だけは、まだ許された。


「では」

 エリシアは静かに頭を下げる。


「はい、団長」

 レオンは少しだけ嫌そうな顔をした。


「それでいい」

 エリシアは、ほんの少しだけ目を伏せた。


 胸の奥が、痛い。

 それでも、少しだけ温かかった。

 レオンは資料を指で示す。


「職務停止中は休め」

「はい」


「明けたら、第二執務室で働け」

「はい」


「だが、軍務は任せる」

 エリシアは、静かに頭を下げた。


「拝命します」


 その声は震えていなかった。

 副官という席は、消えた。


 けれど、レオンの軍務を支える席は、まだ残っていた。


 それは、罰の後に残された、新しい場所だった。

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