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やめたい騎士団長は、なぜか昇進し続ける  作者: サザルト
第1章 騎士団長編

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第180話 総長として

――帝国暦三二一年・秋終盤 ヴェリア帝国・東ロンバルディア 帝国騎士団領 総庁・総長執務室――


 夜は、まだ明けていなかった。


 ただ、日付だけが変わっていた。


 帝国暦三二一年・秋終盤。


 その日。


 ヴェリア帝国・東ロンバルディア 帝国騎士団領の総長は、ヴァルド・エイゼンではなくなった。


 新総長。


 グラナート・グランフェルト。


 そして同じ日。


 レオンハルト・ヴァイスもまた、総騎士団副長となっていた。


 本人の心の準備だけは、まったく間に合っていなかった。


 だが、それを気にする余裕は、誰にもなかった。


 新総長の机に最初に置かれた案件は、娘の軍令違反だった。


■ヴェリア帝国・東ロンバルディア 帝国騎士団領 総庁・総長執務室


 総長執務室は、静かだった。


 重い机。


 整えられた書類。


 壁に掛けられた騎士団領の地図。


 その部屋に、グラナート・グランフェルトが立っていた。


 正式に、総長として。


 そして。


 エリシアの父として。


 机の上には、一連の報告書が並べられている。


 シエラの報告書。


 クリスの証言記録。


 リリアの聴取記録。


 メリーの聴取記録。


 イリスの証言記録。


 監察課の中間報告。


 委任状の写し。


 第六中隊の出動記録。


 どれも、軽くない。


 グラナートは、それらをすべて読んでいた。


 一枚ずつゆっくりと。


 感情を挟まないように。


 父としてではなく。


 総長として。


■ヴェリア帝国・東ロンバルディア 帝国騎士団領 総庁・総長執務室


 扉が叩かれた。


「入れ」


 低い声が響く。


 入ってきたのは、レオンだった。


 後ろに、クリス。


 少し離れて、シエラ。


 メリーとリリアもいる。


 最後に、イリスが静かに入室した。


 エリシアはいない。


 まだ監察課管理下にある。


 その事実が、この場の空気を重くしていた。


 グラナートは全員を見た。


 娘のいない場で。


 娘の件を裁くために。


「座れ」


 短く言う。


 誰も余計なことは言わなかった。


 全員が席につく。


 レオンだけが、正面に立ったままだった。


「座れと言った」


「立ったままで構いません」


「命令だ!」


 レオンは静かに座った。


 クリスが少しだけ横目で見る。


 レオンが命令に従った。


 それだけで、この場の重さが分かる。


■ヴェリア帝国・東ロンバルディア 帝国騎士団領 総庁・総長執務室


 グラナートは報告書を一枚手に取った。


「まず確認する」


 声は硬い。


「今回の件で、イリス殿下の収容自体を罪とするつもりはない」


 イリスが静かに顔を上げる。


「皇女殿下一行が襲撃を受け、馬車を失い、旧林道へ避難した」


「これを第六中隊が収容した」


「その行為は救護であり、騎士団領として当然の対応だ」


 リリアが、少しだけ息を吐く。


 しかし、グラナートの声は緩まない。


「問題は、その前だ」


「誰が」


「どの権限で」


「第六中隊を領外へ出したか」


 部屋が静まる。


「団長名義の委任状は偽造」


「当時の第七騎士団長であったレオンハルトは承認していない」


「正式な出動申請もない」


「その上で、第六中隊が領外へ出た」


 グラナートは、エリシアの名をまだ出さない。


 事実だけを並べる。


 それがかえって重かった。


「さらに」


「皇太子殿下からの書状を宛名人に渡さず、秘匿した」


「返書を勝手に作成した」


「到着遅延を知りながら、指揮官へ報告しなかった」


「報告は事後になった」


「そして、正式な監察が入るまで、事態は関係者内で処理されようとしていた」


 誰も言い返せなかった。


 全て、事実だったから。


■ヴェリア帝国・東ロンバルディア 帝国騎士団領 総庁・総長執務室


 グラナートは、そこで初めてエリシアの名を出した。


「エリシア・グランフェルトは、委任状偽造の直接実行者だ」


 リリアが小さく肩を揺らす。


 メリーは目を伏せる。


 レオンは動かない。


「副官として、命令系統の重さを知らなかったとは言えない」


「むしろ、知っていたはずだ」


「知った上で破った」


 声に怒りはない。


 それでも、厳しさがあった。


「これは重い」


 短い言葉。


 それだけで、部屋の空気が沈む。


 リリアが口を開きかける。


 レオンが目だけで止めた。


 今は、言い返す場ではない。


 グラナートは続ける。


「だが、単独犯ではない」


「リリア・ヴァイス」


「はい……」


「書状を開封し、秘匿した」


「はい」


「メリエラ・エイゼン」


「はい」


「返書、出動名目、委任状文案に関与した」


「はい」


「クリス」


「はい」


「委任状の真正性に疑義を持ちながら、第六中隊を動かした」


「ああ」


「シエラ」


「はい」


「報告を延期させ、報告書として保全した」


「はい」


「イリス殿下」


「はい」


「今回の一連の行動が、ご自身の任官のためであると証言された」


「はい」


 グラナートは全員を見る。


「責任は一人ではない」


 その言葉が、部屋に落ちる。


 レオンが口にした言葉。


 監察課が整理し始めた言葉。


 今度は、新総長が言った。


■ヴェリア帝国・東ロンバルディア 帝国騎士団領 総庁・総長執務室


 リリアが、たまらず口を開いた。


「グラナート様」


「発言を許す」


「エリシアさんは……」


 そこまで言って、声が詰まる。


 リリアは深く息を吸った。


「エリシアさんは、イリス様を助けるために動きました」


「分かっている」


「私が、最初に隠しました」


「それも分かっている」


「だから……」


「だから、エリシアの罪が消えるのか」


 静かな問いだった。


 リリアは何も言えなくなった。


 グラナートはリリアを責めているわけではない。


 ただ、事実を突きつけている。


「善意は、罪を消さない」


 低い声だった。


「必要性も、手続き違反を消さない」


「皇女殿下を救った功績も、委任状偽造を消さない」


「ただし、罪の重さを判断する材料にはなる」


 リリアが顔を上げる。


「私は、そこを見ている」


 グラナートは言った。


「父としてではなく」


「総長として」


■ヴェリア帝国・東ロンバルディア 帝国騎士団領 総庁・総長執務室


 レオンが口を開いた。


「グラナート総長」


「何だ」


「エリシアの拘束を続ける必要はありますか」


 部屋が静まる。


 グラナートはレオンを見る。


「監察課の中間報告では、証拠はほぼ保全された」


「関係者の証言も揃いつつある」


「逃亡の可能性は低い」


「口裏合わせの危険も、既に低下している」


 レオンは淡々と言う。


「拘束から、監視付き待機へ変更すべきです」


 グラナートはしばらく黙った。


「副官だったからか?」


「いいえ」


「では、なぜそう言う」


「事実として、拘束継続の必要性が薄いからです」


 レオンの声は変わらない。


「それに」


「エリシア一人だけを隔離したままでは、責任が一人に偏る」


 グラナートの目が少し細くなる。


「庇っているのか」


「庇うつもりなら、無罪を主張します」


「しないのか」


「できません」


 レオンは即答した。


「偽造は事実です」


「軍令違反も事実です」


「処分は必要です」


 リリアが少しだけ目を伏せる。


 メリーも動かない。


「ですが」


 レオンは続けた。


「彼女一人の責任として処理するのは、事実ではありません」


 グラナートは、レオンを見ていた。


 厳しい視線だった。


 父親の視線ではない。


 総長としての視線。


「分かった」


 やがて、そう言った。


「拘束継続の必要性を再評価する」


 リリアの顔に、少しだけ希望が浮かぶ。


「ただし」


 グラナートの声が重くなる。


「処分が軽くなるとは限らん」


 その希望は、すぐに引き締まった。


■ヴェリア帝国・東ロンバルディア 帝国騎士団領 総庁・総長執務室


 イリスが、静かに手を上げた。


「発言をお許しいただけますか」


「許す」


「ありがとうございます」


 イリスは、まだ少し疲れの残る顔で、まっすぐグラナートを見た。


「今回の騒動は、私の任官のために起きました」


「証言記録で読んだ」


「はい」


「ですが、改めて申し上げます」


「私の願いがなければ、このようなことにはなりませんでした」


 リリアが小さく首を振る。


 イリスはそれを横目で見て、静かに続けた。


「私は、客人ではなくなりたかった」


「レオンの下で働くために、皆さんを巻き込みました」


「直接命じたわけではありません」


「委任状偽造も、第六中隊の出動も、事前には知りませんでした」


「それでも、私だけが外側にいることはできません」


 グラナートは黙って聞く。


「私は、総騎士団副長府首席書記官です」


「もう客人ではありません」


「責任を負う側に立つために戻りました」


「ならば、この件でも、その立場で扱ってください」


 グラナートは少しだけ目を細めた。


「皇女殿下としてではなく、首席書記官としてか」


「はい」


「よろしい」


 その言葉に、部屋の空気が少し変わる。


 優しさではないが、認められた。


 イリスが、自分で選んだ立場を。


 グラナートはそれを逃がさなかった。


「では、首席書記官として処分対象の一人に加える」


 リリアが息を呑む。


 イリスは静かに頷いた。


「承知しました」


 レオンは、ほんの少しだけ目を伏せる。


 イリスは自ら望んだ。


 客人ではなく仲間になることを。


 それは、守られるだけでは済まないということだった。


■ヴェリア帝国・東ロンバルディア 帝国騎士団領 総庁・総長執務室


 グラナートは次に、メリーを見る。


「メリエラ」


「はい」


「君は有能だ」


「ありがとうございます」


「だから重い」


 メリーの表情は変わらない。


 グラナートは続ける。


「理解できなかった者より、理解していた者の責任は重い」


「君は制度を理解していた」


「命令系統も理解していた」


「文面の危うさも理解していた」


「それでも整えた」


「はい」


「そこは軽く見ない」


「承知しています」


 メリーは静かに頷いた。


 逃げる気はない。


 最初から。


「ただし」


 グラナートは言う。


「君の整理した文書と、シエラの報告書がなければ、今回の件はもっと悪くなっていた」


 メリーが少しだけ目を上げる。


「罪と整理能力は別だ」


「だが、結果として事実の保全に寄与した」


「そこも見る」


「ありがとうございます」


「礼を言うな」


 グラナートの声は硬い。


「処分はある」


「はい」


■ヴェリア帝国・東ロンバルディア 帝国騎士団領 総庁・総長執務室


 次に、リリア。


 グラナートの目が向く。


「リリア・ヴァイス」


「はい」


「君の行為は、情によるものだ」


 リリアは唇を結ぶ。


「イリス殿下を戻したかった」


「レオンハルトに止められると思った」


「だから書状を開け、隠した」


「はい」


「軍令違反そのものの直接実行者ではない」


「だが、事態の始点の一つではある」


「はい」


「君の行為がなければ、少なくとも別の形になっていた」


 リリアは俯きそうになる。


 でも、堪えた。


「処分は受けます」


「よろしい」


 グラナートは短く答えた。


「ただし、君の処分はエリシアの処分とは別に考える」


「はい」


「誰かを守るために、自分が重い処分を受ければいいという話ではない」


「……はい」


 それは、リリアの考えを読まれたような言葉だった。


 グラナートは、見抜いていた。


■ヴェリア帝国・東ロンバルディア 帝国騎士団領 総庁・総長執務室


 クリスが軽く息を吐いた。


「俺もだろ」


「当然だ」


 グラナートはすぐに返す。


「君は第六中隊長だ」


「疑わしい委任状を受け取り、真正性を確認しないまま部隊を動かした」


「はい」


「だが、現場判断として皇女殿下の救護を遂行した」


「はい」


「兵への情報統制も、結果として妥当だった」


「それは助かる」


「調子に乗るな!」


「はい」


 クリスはすぐに真顔になった。


 レオンが横目で見る。


 クリスは小さく肩をすくめる。


 グラナートは続けた。


「君への処分もある」


「だろうな」


「ただし、証言は評価する」


「嘘をつかなかったこと」


「自分の判断を認めたこと」


「第六中隊の兵を守る証言をしたこと」


「そこは記録に残す」


 クリスは少しだけ目を伏せた。


「……どうも」


「礼ではない」


「はい」


■ヴェリア帝国・東ロンバルディア 帝国騎士団領 総庁・総長執務室


 最後に、シエラ。


 グラナートは報告書を手に取る。


「シエラ」


「はい」


「君は報告を延期した」


「はい」


「これは問題だ」


「承知しています」


「だが、この報告書は有効だった」


「ありがとうございます」


「論点を分けた」


「救護行動と軍令違反を混同させなかった」


「関係者の責任を一人に寄せなかった」


「証拠保全としても機能している」


「はい」


「処分はある」


「承知しています」


「だが、記録官としては優秀だ」


 シエラは静かに頭を下げた。


「評価として受け取ります」


 傍の、クリスがぼそりと言う。


「褒められてんのに怖いな」


「聞こえています」


「聞こえるように言った」


 グラナートが二人を見る。


「ここは雑談の場ではない」


「はい」


 二人同時だった。


 少しだけ空気が動いた。


 ほんの少しだけ。


■ヴェリア帝国・東ロンバルディア 帝国騎士団領 総庁・総長執務室


 グラナートは全員を見渡した。


「私情で言えば」


「エリシアは私の娘だ」


 部屋が静まる。


 リリアが目を上げる。


 レオンも、わずかに視線を動かした。


「娘が拘束された」


「軍令違反の疑いをかけられた」


「父として思うことはある」


 グラナートの声は低い。


 少しだけ、いつもより人間味があった。


 しかし、すぐに声は硬さを取り戻す。


「だが、ここでは関係ない」


「私は総長だ」


「父として裁けば、騎士団は歪む」


「父として庇えば、軍令は軽くなる」


「父として重く罰しても、同じく歪む」


「だから、総長として見る」


 その言葉は、重かった。


 エリシアの父ではなく。


 総長として。


「救護は救護」


「違反は違反」


「責任は各人に分ける」


「処分は、事実と必要性に応じて判断する」


「情で増減はしない」


 誰も口を挟まなかった。


 それが、この場の答えだった。


■ヴェリア帝国・東ロンバルディア 帝国騎士団領 総庁・総長執務室


「先に言っておく」


 グラナートは、報告書を机の上に置いた。


「今日ここで決めるのは、最終処分ではない」


 その言葉に、リリアがわずかに顔を上げる。


「正式な処分は、監察課の最終報告を待つ。その後、軍務審問会に付す。必要であれば、軍法会議にも上げる」


 部屋の空気が、さらに重くなった。


 軍法会議。


 その言葉は、騎士団に属する者にとって軽いものではない。


 リリアの顔から、わずかに血の気が引く。


 メリーは目を伏せたまま動かない。


 クリスも、さすがに軽口を挟まなかった。


「エリシア・グランフェルトの行為は、委任状偽造および命令系統の逸脱に当たる」


 グラナートは淡々と言う。


「救護行動が絡んでいるとはいえ、総長の一存だけで処分を終えられる案件ではない」


 その言葉は、エリシアを突き放すものでもあり、同時に守るものでもあった。


 父の情で軽くしない。


 父の怒りで重くしない。


 騎士団として、手続きを踏む。


 ただそれだけを、グラナートは示していた。


「だが」


 グラナートは続けた。


「監察が終わるまでの身柄、職務、権限については、総長として判断する」


 誰も口を挟まなかった。


「拘束を続けるか、監視付き待機に変えるか、職務を止めるか、誰の権限を一時的に制限するか」


 グラナートの声は、硬かった。


「今から告げるのは、その暫定措置だ」


 リリアが、震えそうになる指先を膝の上で握った。


 まだ終わらない。


 まだ、エリシアの処分は決まらない。


 そして少なくとも、今この場で全てが決まってしまうわけではない。


「結論を出す」


 グラナートは言った。


 全員の背筋が伸びる。


「エリシアの拘束を、監視付き待機へ変更する」


 リリアが息を止めた。


 メリーもわずかに目を上げる。


 レオンは動かなかった。


 だが、その目が少しだけ変わった。


「ただし、処分決定までは職務停止」


「副官としての通常職務には就かせない」


 リリアの顔が少し曇る。


「リリア・ヴァイス」


「はい」


「書状取扱い業務を一時停止」


「監督付き業務へ移行」


「正式戒告を含めて検討する」


「はい」


「メリエラ・エイゼン」


「はい」


「統括管理官補佐としての一部権限を一時停止」


「副長府移行業務への関与は制限付きで認める」


「処分は減俸または戒告を含めて検討する」


「はい」


「クリス」


「はい」


「第六中隊長としての判断について聴取継続」


「ただし、第六中隊兵の責任追及は現時点では行わない」


「助かる」


「君への戒告は検討する」


「だろうな」


「シエラ」


「はい」


「報告延期については問題視する」


「ただし報告書の功績も評価する」


「処分は軽度を想定する」


「承知しました」


 最後に、イリスを見る。


「イリス殿下」


「はい」


「首席書記官として、正式注意」


「今後、職務上の手続きを軽視しないこと」


「あなたはもう客人ではない」


「はい」


 イリスは深く頭を下げた。


「承知しました」


 グラナートは、最後に言った。


「エリシアの最終処分は、監察課の最終報告と軍務審問会の結果を受けて、改めて裁定する」


「それについては、決まり次第、副長府およびレオンハルトに通達する」


「父としてではなく」


「総長として」


■ヴェリア帝国・東ロンバルディア 帝国騎士団領 総庁・総長執務室前廊下


 部屋を出ると、リリアはその場で少しだけ膝の力が抜けそうになった。


 メリーがそっと支える。


「リリアさん」


「……エリシアさん、戻ってこられるんですよね」


「監視付き待機に変更されます」


 メリーは静かに言う。


「少なくとも、拘束室からは出られます」


 リリアの目に涙が浮かぶ。


「よかった……」


「まだ終わっていません」


「はい」


「でも」


「少し進みました」


 リリアは頷いた。


 クリスは壁にもたれて、大きく息を吐く。


「新総長、怖ぇな」


「正しい判断でした」


 シエラが言う。


「正しいのが怖ぇんだよ」


「それは分かります」


「分かるのか」


「はい」


 イリスは静かに廊下の先を見る。


 その向こうに、総庁の灯りがある。


 エリシアがいる場所も。


「レオン」


 イリスが呼ぶ。


 レオンは振り返る。


「エリシアさんは、戻ってきますか」


「戻す」


 短い返事だった。


 迷いはない。


「ただし」


「怒る」


 イリスは少しだけ笑った。


「私もですね」


「当然だ」


「はい」


 その声は、少しだけ柔らかかった。


 だが、まだ笑うには早い。


 エリシアは、拘束室からは近く出られる。


 けれど、処分はまだ決まっていない。


 軍務審問会も、監察課の最終報告も、これからだった。


 秋の夜は、もう少し続きそうだった。

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