表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/153

増える評価 減らない余裕(改稿版)

 帝国暦三二〇年 春中頃

 東ロンバルディア帝国騎士団領 

 第七騎士団 本庁


「姫様!」

 そんな声が、本庁に響くようになった。

「姫様、こちらの書類もお願いします!」

「はい、承知しました」

 リリアが受け取る。


 迷いがない。

「助かります!」

「そんな、大したことではありません」

 やわらかく笑う。


(……なんでそうなる)

 レオンは少し離れた位置から、それを見ていた。数日前まで“臨時補助”だったはずの妹は、もう完全にこの場に馴染んでいる。


「姫様、差し入れです!」

「ありがとうございます」

 自然に受け取り、自然に礼を言う。

 誰も違和感を持っていない。


(馴染みすぎだろ)

 というか。

(人気出すぎだろ)

「癒しってやつです」

 部下が軽く言う。


「団長、いい人連れてきましたね」

「連れてきた覚えはない」

 その横で。

 エリシアは書類を処理している。

 いつも通り。

 正確に無駄なく。


(……騒がしい)

 内心で思う。

(業務に支障はない)

 むしろ、効率は上がっている。

(問題はない)

 結論は変わらない。


「姫様、こちらも――」

 その呼び方が、耳に残る。

(……副官は、私だ)

 役割は変わっていない。

 位置も変わっていない。

 それでも。

(……同じではない)

 何かが、ずれている。


「エリシアさん」

 リリアが振り向く。

「こちら、確認をお願いできますか?」

 自然な頼み方。

 配慮もある。

「……はい」


 受け取り確認、内容は完璧。

 修正の余地はない。

「問題ありません」

「ありがとうございます」

 また、笑う。


(……やりにくい)

 否定できない。

 だからこそ、立場が揺れる。



 夕刻。

「団長」

 呼ばれる。

「なんだ」

「上層部から通達です」

 嫌な予感しかしない。

「言わなくてもわかる」

「恐らく」

 書類を受け取り、目を通す。


「……正式か」

「正式です」

 エリシアが淡々と告げる。

「第十騎士団長任命」

「暫定ではなく、正式に三騎士団の団長を兼任する形になります」

「……増えたな」

「増えました」

「理由は」

「成果です」


 短い、だが十分だった。

「運用効率、統率、戦績。すべてにおいて高評価」

(だろうな)


 レオンは思う。

 結果は出ている。

 否定できない。

「団長、おめでとうございます!」

 周囲がざわつく。

「三団長ですよ!」

「すごいですね!」

「凄くない!!」

 レオンは即答する。


 その横で。

「おめでとうございます、お兄さま」

 リリアが嬉しそうに言う。

 純粋にまっすぐに。

(……喜んでるな)


「当然の結果です」

 エリシアも言う。

 揺れのない声。

(……本当にそう思ってるのか)


 一瞬だけ、考える。

 だが聞かない。

「……これから忙しくなるな」

 レオンがぽつりと漏らす。

「既に忙しいです」

 エリシア。


「お手伝いしますね」

 リリア。

 間を置かず、両側から来る。

(逃げ場がない)


 書類は減る。

 組織は回る。

 評価は上がる。

 全てが上手くいっている。

 確実に、順調に。

 逃げられない形で。


(……なんでこんなに、しんどいんだ)

 答えは出ない。

 ただ、胸の奥に残る感覚だけが消えない。

「……外、行きたいな」

 小さく呟く。

 誰にも届かない声で。


 だが、その言葉だけは、はっきりと自分の中に残った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ