相談騎士
――帝国暦三二一年・夏終盤 東ロンバルディア帝国騎士団領 第七騎士団 本庁――
「クリス」
「なんだ?」
「第六中隊宿舎へ書類を届けてこい」
一瞬、クリスが止まる。
「……第六宿舎ってどこだっけ?」
空気が止まった。
「は?」
ヴァルトが素で聞き返す。
エリシアは静かに目を閉じる。
頭痛がした。
「第六宿舎はあなたの中隊の宿舎です」
「場所を聞いています」
「……」
エリシアが黙る。
「庁舎を出て右です」
「助かる」
かなり終わっていた。
■第六中隊宿舎
クリスは廊下を歩く。
少し懐かしかった。
だが。
「……誰だ?」
新任騎士が止まる。
「所属は?」
クリスも止まる。
「……第六中隊、中隊長」
静寂。
「えっ!」
新任騎士が固まる。
かなり申し訳なさそうな顔になった。
「す、すみません!!」
「いや気にすんな」
クリスは苦笑する。
実際、自分でもあまり居なかった自覚はある。
■第六中隊・執務室
扉を開く。
直ぐ様。
「……あれ?」
クリスが止まる。
机が無かった。
正確には、別の位置へ移されていた。
「中隊長机、邪魔だったんで少し端へ」
副隊長が普通に言う。
「端!?」
「普段いないので、邪魔なので」
正論だった。
クリスは周囲を見る。
書類整理。
隊運営。
訓練予定。
全部回っていた。
副隊長中心に。
「……なんか普通に回ってね?」
「はい」
即答だった。
かなり傷ついた。
「困ったことある?」
「特に」
「相談事は?」
「本庁庁舎へ行けば、隊長はいつも居るので」
完全に終わっていた。
■第七騎士団 本庁
本庁へ戻る。
クリスは疲れた顔で椅子へ座った。
「……俺、もう第六中隊にいらなくないか?」
一瞬、ヴァルトが頷く。
「今さらだな」
ニルが笑う。
「ガハハ!! もう本庁勤務だろ!!」
「違ぇよ!!」
即否定だった。
だが、ココは静かに首を傾げる。
「では、何なのですか?」
止まる。
クリス本人も。
「……何なんだ俺」
本気で分からなくなっていた。
リリアが小さく笑う。
「でも、クリスさん居ると安心しますよ?」
柔らかい声だった。
「お兄ちゃんみたいですし」
クリスが止まる。
「……まあ、昔から見てるしな」
少しだけ照れ臭そうだった。
ココが静かに見る。
やはり距離が近い、かなり近い。
「レオンさんも、クリスさんにはいっぱい相談してますよね」
リリアが続ける。
「すごいと思います」
クリスは頭を掻く。
「別に大したことじゃねぇよ」
「相談役みたいなもんだ」
その瞬間、ヴァルトが止まる。
「……相談役?」
ニルも反応する。
「お、いいなそれ!!」
「相談騎士とかどうだ!!」
空気が止まる。
そして、エリシアが静かに頷いた。
「……分かりやすいですね」
「やめろ」
クリスが即答する。
だが、レオンは少し考え。
「相談騎士か」
「悪くない」
承認した。
「お前が承認するな!!」
遅かった。
■数日後
第七騎士団内。
「相談騎士殿」
「書類こちらです」
「やめろって言ってんだろ!!」
完全に定着していた。
■第七騎士団 本庁・廊下
クリスは疲れ切っていた。
その横を、シエラが歩く。
「……笑うなよ」
「別に嫌いじゃないだろとか言うなよ」
先制だった。
シエラは静かに瞬きをする。
「私はそうは呼びません」
クリスが止まる。
「……マジか」
少し嬉しそうだった。
次の瞬間。
「クリス調査員!」
シエラは静かに言った。
「今後の聞き込みへ向かいます」
クリスは唖然とした。
もっと嫌だった。




