疲れてます?
――帝国暦三二一年・夏中頃 東ロンバルディア帝国騎士団領 第七騎士団 本庁――
いつも通りだった。
書類の報告。
そして確認。
最後に決裁。
騒がしい本庁。
だが。
「……団長?」
リリアが少し首を傾げる。
レオンは窓の外を見ていた。
珍しかった。
「どうしました?」
小さく聞く。
レオンはゆっくり視線を戻す。
「いや」
短い。
だが、少しだけ反応が遅かった。
リリアは少し考える。
「……疲れてます?」
静かな声だった。
レオンは止まる。
否定しようとして、少しだけ間が空く。
「……少し」
珍しかった。
素直だった。
リリアは少し困ったように笑う。
「最近、ずっと忙しいですもんね」
レオンは小さく息を吐く。
「増えたからな」
「騎士団も」
「仕事も」
低い声だった。
■第七騎士団 本庁・応接室、午後。
イリスが紅茶を飲んでいた。
レオンは向かいに座る。
「帝都は」
レオンが口を開く。
「忙しいのか?」
一瞬、イリスは少しだけ目を細める。
「場所によりますね」
「少なくとも」
「ここほどではありません」
静かな返答だった。
「そうか」
レオンは小さく呟く。
「屋敷には帰れるのか」
イリスが止まる。
「毎日帰れますよ」
少し微笑んで答える。
レオンは黙る。
静かだった、少しだけ。
その言葉を考えていた。
「……なるほど」
小さく返す。
イリスは何も聞かない。
ただ、静かに紅茶を飲む。
「帝都は、静かですよ」
ぽつりと言う。
「夜も」
「書類も、ここまで積まれません」
レオンは視線を落とす。
机の端の積み上がった未処理書類。
かなり高かった。
「……魅力的だな」
思わず漏れた。
イリスが少しだけ笑う。
「ええ」
「おすすめします」
静かな声だった。
■第七騎士団 本庁・執務室
戻ってきたレオンを見て。
エリシアは少しだけ止まる。
「……何かありましたか」
レオンは席へ座る。
「いや」
短い返答。
だが、少しだけ、考え込んでいた。
一度、エリシアは視線を落とす。
聞かない。
だが、少しだけ嫌な予感がしていた。
■第七騎士団 本庁・廊下
クリスは書類を運んでいた。
その途中。
ぼんやり歩くレオンを見る。
「おいレオン!」
「本当に疲れてんのか?」
珍しく聞く。
レオンは少し考える。
「……分からん」
曖昧だった。
クリスが少し眉を寄せる。
いつものレオンなら。
「問題ない」
そう返すはずだった。
だが、今日は違う。
レオンは小さく言う。
「……イリスに聞いた」
「帝都は、こんなに仕事がないらしい」
クリスが止まる。
「……は?」
レオンは真顔だった。
かなり本気だった。
クリスは少しだけ嫌な顔をする。
なんとなく、嫌な予感がした。




