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誘い

――帝国暦三二一年・夏中頃 東ロンバルディア帝国騎士団領 第七騎士団 本庁――夜


 執務室には、まだ灯りがついている。

 未処理の書類の山。

 追加分。

 新設分。

 終わらない。


 レオンは無言で書類を見ていた。

「……まだやっていたのですか?」

 静かな声だった。

 イリスが入ってくる。

 レオンは少しだけ視線を上げる。

「終わらない」

 短かった。


 イリスは周囲を見る。

 書類。

 新人名簿。

 再編成資料。

 南方報告。

 かなり酷かった。

「増えましたね」

「増やされた」

 即答だった。


 レオンは椅子へ深く座る。

「ベテランを外され」

「新人や新任を入れられ」

「新設騎士団を任され」

「帰る時間もない」

 低い声だった。


「最近は、屋敷にも戻れていない」

 珍しく、愚痴だった。

 イリスは少しだけ目を細める。

「……多少は手伝いますよ」

 静かな声。


 レオンは首を振る。

「君は客人だ」

「無理しなくていい」

 短い答え。

 イリスは少し黙る。


「それなら」


「帝都へ行きませんか?」

 空気が止まる。

 レオンが視線を上げる。

「……帝都?」

「ええ」

 イリスは頷く。

「爵位の話も出ています」

「仕事も、こちらほどではありません」

「少なくとも」


「今みたいな働き方はしなくて済みます」

 静かな声だった。

 冗談ではない。

 本気だった。

 一瞬にして、レオンは黙る。


 珍しかった。

 すぐ否定しなかった。

「……そんなに違うのか?」

 小さく聞く。


 イリスは少し笑う。

「ここが異常なんですよ」

 即答だった。


 レオンは止まる。

 否定できなかった。

「もし、レオンが望むなら」


「私は、一緒に帝都へ行っても構いません」

 静かな声だった。

 軽くはない。

 イリスはまっすぐ見ている。


 レオンは言葉を失う。

 執務室が静かになる。

 外では夜風が鳴っていた。

「……考えておく」

 しばらくして、そう返す。

 イリスは少しだけ笑った。

「ええ」

「急がなくていいですよ」


 レオンは再び書類へ視線を落とす。

 だが、少しだけ思考が別の場所へ向いていた。

 

 ……初めて、“逃げ道”を意識した。

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