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レオンの嘆き

――帝国暦三二一年・夏初め 東ロンバルディア帝国騎士団領 第七騎士団 本庁――


 静かだった。

 静かすぎた。


 レオンは机に突っ伏している。

 書類は増えていた。

 第十二騎士団。

 新設準備の人員整理。

 装備移管。予算。

 訓練計画。


「……増えている」

 低い声だった。

 エリシアが静かに答える。

「増えています」


「減る話だった」

「そう聞こえましたね」

 否定しなかった。


 レオンは天井を見る。

「騙された」

「ヴァルド総長ですか?」

「他にいるか」


 エリシアは少しだけ視線を逸らす。

 少しだけ、同意した。

「……ですが」


「ノイン副団長が受けていなければ」

 そこで止まる。

 レオンも止まる。

 

「……四個騎士団になるところだった」

 静かに言う。

 第七。

 第十。

 第十一。

 第十二。


 沈黙が長かった。

「…………逃げるか」

 ぽつりと呟く。

 エリシアが顔を上げる。

「はい?」

「どこか遠くへ」

「山とか」

 真顔だった。


 エリシアは止まる。

 数秒考える。

「……書類は追ってきます」

 静かな返答だった。

 レオンは目を閉じる。

「最悪だ」


 その時、扉が開く。

「団長、お茶です」

 リリアだった。

 一瞬。

 机に突っ伏した兄を見る。

「……大変そうですね」

 レオンは顔を上げない。

「増えた……」

「仕事が」

 低い声だった。


 リリアは少し考える。

 そして、ふわりと笑った。

「でも、お兄様だから頼まれるんですよね」

 一瞬だけ。

 レオンが止まる。

 リリアは続ける。

「皆、お兄様なら大丈夫って思ってるんだと思います」


「すごいです!」

 まっすぐだった。

 悪意も、打算もない。

 純粋な尊敬。


 レオンは黙る。

 数秒後。

「……そういう問題ではない」

 小さく返す。

 だが、ほんの少しだけ。

 さっきより声音が軽かった。

 エリシアはそれを見ていた。

(……単純ですね)


 リリアは嬉しそうに笑う。


 ■第七騎士団 本庁・廊下

 クリスが歩いていた。

 その前に。

 レオンが立つ。


「……相談がある」

 珍しかった。

 クリスが止まる。

「お前が?」

「逃げたい」

 即答だった。


 クリスは吹き出した。

「は?」

「仕事から」

 レオンは真顔だった。


「また総長に騙された」

「仕事増えた」

「それも減らしてから、前以上に増やされた」

「仕事が終わらない」


 クリスは腹を抱える。

「お前でもそんな顔するんだな……!」

 珍しく、本気で笑っていた。


 レオンは不満そうだった。

「笑い事ではない」

「いや笑うだろ」

 クリスは言う。

「お前、いつも他人事みたいな顔して仕事してたじゃねえか」


「ついに自分に来たな」

 レオンは黙る。

 否定できない顔だった。


「……辞めたい」

 小さく言う。

 クリスは肩を震わせる。

「遅えよ」

 

「こっちは前から思ってたわ」

 レオンは本気だった。

 それが余計に面白かった。

 

 ……仕事だけが、増えていく。

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