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最強の説得役

――帝国暦三二一年・夏初め 東ロンバルディア帝国騎士団領 第七騎士団 本庁――


 エリシアは、副団長室の前に立っていた。

 静かにノックする。

「入れ」

 短い声。


■第七騎士団 本庁・副団長室

 ノインは書類を読んでいた。

「失礼します」

 エリシアは入室する。

 

「第十一騎士団団長の件です」

 その瞬間。

 ノインが小さく目を閉じた。

「……またか」

 珍しく、疲れた声だった。

 エリシアは少しだけ申し訳なくなる。

「総庁から正式要請が出ています」

 

「……断る」

 静かな即答だった。


 エリシアは続ける。

「団長が困っています」

「そうか」

 終わった。

 エリシアは止まる。

(強いですね)

 あまりにも強い。


「……理由を、お聞きしても?」

 一瞬の沈黙。

 ノインは視線を上げる。

「今のままでいい」

 静かだった。


 だが、終わりだった。

 エリシアは理解する。

(これは無理ですね)

 

「失礼しました」

 エリシアは部屋を出る。


■第七騎士団 本庁・廊下

 扉が閉まる。

 

 エリシアは考える。

(説得材料がありません)

 合理では動かない。

 脅しも効かない。

 義務感でもない。


(……これなら)

(可能性がありますね)

 エリシアは歩き出す。

 速く。


■第七騎士団 本庁・給湯室

 リリアが茶葉を整理していた。

「リリアさん」

 

 リリアが振り返る。

「エリシアさん?」

 エリシアは少しだけ言い淀む。

 

「お願いがあります」

 

「団長が、困っています」

 すぐに、リリアの表情が変わる。

「……お兄、いえ団長が?」

 空気が変わった。

「副団長の説得に、ご協力いただけませんか?」

 

 リリアはすぐ頷いた。

「分かりました」

 早かった、迷いがない。


■第七騎士団 本庁・副団長室前

 エリシアが扉をノックする。

「入れ」

 いつもの声。

 扉が開く。

 ノインが視線を上げる。

 一瞬、止まる。


「……リリア様?」

 声が、わずかに揺れた。

 エリシアは見逃さない。

(揺れましたね)


 リリアは小さく頭を下げる。

「お忙しいところ、申し訳ありません、閣下」

「いえ」

 早かった。

 ノインが立ち上がる。

 しかも少し姿勢がいい。

 エリシアは思う。

(分かりやすいですね)

 

 リリアは少し困ったように言う。

「団長、少し大変そうで」

 一瞬で、ノインが止まる。

「……そうですか」

 静かな声。

 だが。

 さっきより明らかに弱い。

「第十一騎士団団長の件です」

 エリシアが追撃する。

「ご協力いただけませんか」

 

 ノインは黙る。

 長い沈黙。

 そして。

「……分かりました」

 落ちた、一瞬で。

 エリシアは固まる。

(早いですね!?)

 リリアは嬉しそうに笑う。

「ありがとうございます」

 

 ノインは視線を逸らす。

「いえ」

 耳が少し赤い。

 エリシアは思う。

(副団長)

(あなた、本当に堅物で通っているのですよね?)


■第七騎士団 本庁・執務室

 報告を聞いたレオンは短く言った。

「そうか」

 

「助かった」

 それだけだった。

 エリシアは黙る。

 一瞬だけ。

(あなたが思っている以上に)

(とんでもない方法で解決しましたよ)

 とは言わない。

 絶対に言えない。

 

 その隣で。

 リリアが少し嬉しそうに笑っていた。

 ……その微笑みは、あまりにも強かった。

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