楽になったはずの話
――帝国暦三二一年・夏初め 東ロンバルディア帝国騎士団領 第七騎士団 本庁――
静かだった。
書類の山は、確かに減っている。
レオンは一枚、紙をめくる。
「……少ないな」
小さく言う。
エリシアが頷く。
「第二騎士団分の処理が減っています」
「当然です」
机の上は整っている。
処理は滞っていない。
レオンは手を止める。
「……すぐ終わるな」
暫くの間。
エリシアは視線だけ向ける。
「本日分は、ですが」
それでも、軽い。
確かに減っている。
リリアが顔を出す。
「お茶、いかがですか?」
「……頼む」
すぐに返した。
リリアは小さく頷く。
茶を置く。
レオンを見る。
ふわりと、微笑んだ。
それだけだった。
空気が、少しだけ緩む。
■第七騎士団 本庁・執務室入口
親衛隊の三人が立っている。
「……今の見たか?」
エゼルが小さく言う。
「見た」
マフガランが頷く。
「今日も姫様が尊い」
ランドが呟く。
全員が静かに目を閉じる。
満足だった。
■第七騎士団 本庁
クリスが扉にもたれる。
「……暇そうだな?」
「そうでもない」
レオンは答える。
「少ないだけだ」
「それを暇って言うんだよ」
空気が、少しだけ軽い。
リリアが戻る。
「落ち着いてますね」
「……ああ」
短く答える。
静かだった。
無理がない。
過不足もない。
――そのとき。
扉が叩かれる。
規則正しい音。
「入れ」
伝令が入る。
「総庁より通達です」
紙が差し出される。
レオンが受け取る。
目を通す。
一瞬で止まる。
「……何だ?」
小さく言う。
エリシアが覗く。
「……新設」
「第十一騎士団」
「第十二騎士団」
空気が、わずかに変わる。
クリスが顔を上げる。
「……また増やすのかよ」
リリアが首を傾げる。
「すごいですね」
メリーが小さく声を出す。
「ああ……」
「聞いていましたので」
それだけだった。
レオンは紙を閉じる。
「……そうか」
短く言う。
それで終わりだった。
■第七騎士団 本庁・廊下
扉が閉まる。
クリスが天井を見る。
「……増やすなよ」
レオンは歩く。
止まらない。
「……増えれば」
一瞬の間。
「分散する」
「仕事も責任も減る」
淡々と言う。
「いいことだ」
クリスは何も言わない。
ただ、笑う。
……これで楽になったはずだった。




