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少し離れるだけの話

――帝国暦三二一年・春終盤 東ロンバルディア帝国騎士団領 第七騎士団 本庁――


 通達は、静かに出された。

「第二騎士団団長は、内部昇格により新たに就任」


 それだけだった。

 レオンは書類から目を上げない。

「……そうか」

 短く言う。

 それで終わりだった。


「戻ることになった」

 ダリオが言う。

「第二騎士団にな」

 ミナが軽く手を振る。

「またあっちだねー」


 クリスが腕を組む。

「……あーあ」

「面倒くさくなるな」

 エリシアの視線が向く。

「何がですか?」


「調整だよ」

 クリスは言う。

「お前らいなくなると、全部こっちに寄るだろ」


「業務に支障はありません」

 エリシアが言う。

「配置は変わりますが、連携は維持されます」

「理屈はな」

 クリスは肩をすくめる。


「現場はそう綺麗に回らねえよ」

 一瞬の沈黙。

 ミナが苦笑する。

「まあ、それはあるね」

 ダリオも頷く。

「しばらくはバタつくだろうな」


 エリシアは一度だけ目を閉じる。

「……承知しています」

「その上で、対応します」

 短く言い切る。

 空気が、整う。


 リリアだけが、少し俯く。

「……寂しいです」

 小さな声だった。


 ダリオは少しだけ笑う。

「そんな遠くねえだろ」

「歩いて来れる距離だ」

「いつでも来い」

「仕事のついででもいい」

 ミナも頷く。

「むしろ来てよ」

「こっちも忙しいしさ」


 リリアは顔を上げる。

「……はい」

 少しだけ笑った。

 レオンはそれを見ている。


「……減ったな」

 小さく言う。

 誰も聞いていない。


 ■第七騎士団 本庁・執務室

 人が減った後。

 静かだった。

 エリシアが書類を整える。

「これで、少しは軽くなります」


 レオンは紙をめくる。

「……そうでもない」


「減った分、寄る」

 淡々と言う。

 エリシアは一瞬だけ止まる。

 それから、小さく息を吐く。

「……そうですね」


 それでも、手は止めない。

 レオンも同じだった。


 ■第七騎士団 本庁・廊下


 扉が閉まる。

 少しだけ、静かになった。

 クリスは小さく息を吐く。

(……シエラも、あっちに戻ってくれねえかな)


「……聞こえています」

 すぐ後ろから、声。

 クリスが止まる。

 振り返らない。

「……言ってねえ」

「表情で分かります」


 クリスは空を見る。

 ……少し離れるだけだった。


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