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見合いのはずが

――帝国暦三二一年・春終盤 東ロンバルディア帝国騎士団領 第七騎士団 本庁――


「見合い?」

 ミナが笑う。

「ついに来たか」

「違う」

 クリスは短く言う。

「行きます」

 シエラはそれだけだった。


 そうして、クリスはシエラの実家へと連れて行かれた。


 ■シエラ実家

「いらっしゃい」

 静かな声だった。

 席に通される。

「……クリスです」

「本日は、よろしくお願いします」


「話は聞いている」

 父親が言う。

「ええ、判断します」

 母親が続いた。


 嫌な予感がした。

「説明します」

 シエラが言う。

「我が家は調査業を生業としています」

「情報を収集し、分析し、報告する」

「現在、人手が足りません」

 

 ですから。

「あなたを候補として連れてきました」

 一瞬の沈黙。

「……見合いじゃねえのか?」

「違います」

「帰る」

「不可です」


「では、開始します」

 逃げ場はなかった。

 数時間後、クリスは屋敷の外に立っていた。


「……疲れた」

「問題ありません」

 シエラは変わらない。


 シエラが一枚の紙を差し出す。

「契約書です」

「……は?」

 クリスは目を通す。

「……ちょっと待て」

「情報は全部提出?」

「拒否不可?」

「……代償って何だよ」


「あなたの命です」

 かなりの長い沈黙。

「無理だ」

「無理だ、これは無理だ」

「拒否する」


 長い間の後、シエラが口を開く。

「……あの時」

「庇いましたよね」

 クリスの動きが止まる。

「……それとこれとは」

「同じです」


 ペンが差し出される。

 静かだった。

「……くそ!」

 クリスは印を押した。

「契約成立です」

 外に出る。


「……お前」

「情報収集とか分析好きなの」

「今日、よく分かったよ」

「そうですか?」

 ちょっとした間の後。

「騎士団は副業禁止ではありませんので」

「問題ありません」

 シエラは続ける。


「暫くは、調査員であることは伏せます」

「対外的には、恋人ということで」

 一瞬。

「……は?」

「騎士団外で二人の時は」


「シエラ上級調査員とお呼びください!」


 ■シエラ実家前

 リリアが立っていた。

「……なんでここにいる」

 クリスが言う。

「お見送りです」

 リリアは少しだけ笑う。

「……仲、いいですね」

「……どこがだ!」


 クリスは空を見る。

 ……見合いのはずだった。


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