仕事がちょっとだけ減りそうな件
――帝国暦三二一年・春中頃 東ロンバルディア帝国騎士団領 第七騎士団 本庁 執務室――
一昨日のことを、思い出す。
総騎士団総庁会議室での管理官会議。
そして、連日同じ様な書類を三度確認する日々。
一度目は内容。
二度目は形式。
三度目は、承認のため。
意味は、変わらない。
それを三騎士団分、ほぼ毎日。
レオンの言葉は少ない。
だが、また目の前に、書類の山。
今日も、同じだった。
これが、いつまで続くのか。
ふと、思う。
周囲は、忙しそうだった。
ペンが走る音。
紙がめくられる音。
誰も、止まらない。
レオンは、その姿を見ている。
その中に、自分もいる。
だが、どこか、ずれている。
外を思う。
風の音、空の広さ。
ここには、ない。
レオンは、立ち上がる。
椅子がわずかに鳴る。
「……どちらへ」
エリシアだった。
「……総庁」
短く答える。
レオンは歩き出す。
迷いはない。
「……行きます」
エリシアが続く。
「補佐として同行いたします」
メリーも立ち上がる。
止める者はいない。
――総庁 総長執務室――
扉が開く。
レオンはそのまま入る。
エリシアとメリーが続く。
「……多い」
一言だった。
「何がだ?」
総長が聞く。
「仕事が」
それだけだった。
だが、話は続く。
「……同じことを、毎日三度やらされる」
「確認も、承認も、報告も三騎士団分」
「作業が重複している」
「……休みもない」
「必要以上だ」
静かな沈黙。
エリシアが口を開く。
「……現状に問題はありません」
「各騎士団とも正常に稼働しております」
メリーも続く。
「負担は許容範囲内です」
「統計上も問題は確認されておりません」
一瞬の沈黙。
けれど、メリーはわずかに間を置く。
「……ただ」
総長を見る。
「これに加え統括管理官としての業務量は、過多かと」
空気が、わずかに動く。
総長は目を細める。
「……だが辞任は認められん」
短く言う。
「……しかし要望は聞く」
レオンは、わずかに視線を上げる。
「……減らせ」
一言。
総長はしばらく黙る。
そして。
「……一部、調整する」
「負担は軽くする」
一瞬の沈黙。
レオンは短く頷く。
「……それでいい」
それだけだった。
レオンは踵を返す。
扉が閉まると。
静寂が広がる。
総長は、わずかに息を吐く。
「……それで収まるか」
――数日後。
第二騎士団団長は、内部昇格によって新たに就任する。その旨が、正式に通達された。
机の上は、変わらない。
書類の山も、そのままだ。
だが、いずれ、減る。
そのはずだった。
……少しだけ、先が軽くなった。




