静かに収まる話
――帝国暦三二一年・春初め 東ロンバルディア帝国騎士団領 ヴァイス邸 客間イリスの部屋――
総長への説明と謝罪は滞りなく済み、レオンへの簡潔な詫びも終えたことで、騒動はひとまず収束へと向かっていた。
静かな室内、湯気が、ゆらいでいる。
メリエラは席に着いていた。
向かいには、イリス。
「今後について、整理いたします」
静かに言う。
「現在の噂は、拡散しきっています」
「否定では、収まりません」
メリエラは頷く、分かっている。
一瞬の静寂。
「ですので」
「収める方向に、流れを変えます」
淡々と告げる。
メリエラは顔を上げる。
「……どのように?、お姉様」
静かに問う。
イリスは答える。
「広げたのがリリア様であれば」
「収めるのも、同じです」
静かな論理。
一瞬の沈黙。
メリエラは、わずかに息を吐く。
「……さすが、お姉様」
小さく言う。
(……これで終わる)
(……終わらせる)
「……お願いいたします」
静かに言う。
イリスは頷く。
「総長への対応は」
「帰還後に紹介する、で統一いたします」
「それまでの時間で」
「収束させます」
淡々と続ける。
一瞬の沈黙。
だが。イリスは、わずかに間を置く。
「その方とは」
一瞬の間。
「いずれ、お別れすることになります」
静かに言う。
再度の沈黙。
メリエラの視線が揺れる。
「……そう、ですね」
小さく答える。
どこか、引っかかるものが残る。
イリスは何も言わない。
ただ、カップに手を伸ばす。
香りを含むの一瞬の静寂。
話は終わった。
■第七騎士団 本庁
「……そうだったのですね」
リリアは微笑んだ。
「ご事情があったのですね」
静かに言う。
周囲の空気が、変わる。
納得へと。
噂は、形を変える。
広がるのではなく。
収まる方向へと。
静かに。
だが。
リリアは、ほんのわずかに首を傾げた。
何かが、引っかかっている。
言葉にはならないまま。
噂は、消える。
きっかけさえあれば。
だが、すべてが消えるわけではない。
残るものがある。理由の分からないままの小さな違和感が。
静かに、そこに残り続けていた。




