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優しい勘違いの広がり ― リリアの言葉は、よく届く

――帝国暦三二一年・春初め東ロンバルディア帝国騎士団領 ヴァイス邸 客間――


 静かな室内。

 湯気が、ゆらいでいる。

 メリエラは席に着いていた。

 向かいには、イリス。


「調査の結果をお伝えします」

 静かに言う。

 メリエラは頷く。

 一瞬の間。

「発端は総庁です」

 イリスは続ける。

「ただし」


「拡散の原因は別にあります」

 一瞬の間。

「リリア様です」

 迷いなく言った。


 メリエラの手が止まる。

「……やはり」

 小さく呟く。


 イリスは続ける。

「“おめでとうございます”」

「その一言が、決定的でした」

 一瞬の沈黙。

「親衛隊がそれを事実として受け取り」

「さらに外へと伝達しました」


「結果」


「結婚を前提とした関係として認識されています」

 淡々とした報告。


 メリエラは何も言わない。

 ただ、聞いている。

 一瞬の静寂。

「問題はここからです」

 イリスが言う。


「すでに」

「収拾がつかない段階に入っています」

 すぐに、

 空気が、わずかに沈む。


「否定しても」

「訂正される保証はありません」

「むしろ」

「関係の存在を前提に、解釈が補強される可能性があります」


 メリエラの視線が落ちる。


「……では」

 小さく言う。

「どうすればよろしいのでしょうか?お姉様」


 その言葉は、静かだった。

 だが、逃げ場のない問いだった。

 イリスは、ほんの少しだけ間を置く。

 そして。

「現時点では、選択肢は限られています」


 静かな声。

 だが、逃げ道はない。

「一つは」

「否定を続け、このまま耐える」


「もう一つは」

「何らかの手段で、沈める」

 淡々とした提示。

 

 メリエラは迷わない。

「……沈めるべきかと」

 小さく言う。


 イリスは頷く。

「そうですか」


 そして。

 ほんのわずかに、間を置く。

 視線が、わずかに細まる。

「では」

 一瞬の間。

「一つ、方法があります」

 メリエラの表情が、わずかに強張る。

 

 イリスは、静かに言った。

「――噂を、事実にしてしまいましょう」

 一瞬、空気が止まる。


「……は?」

 かすかに、声が漏れる。

 長い沈黙の後。

 イリスは続ける。

「曖昧な状態が続くから、解釈が広がるのです」

「であれば」


「一度、確定させてしまえばよろしい」

 静かな論理。


 メリエラは言葉を失う。

「……確定、とは」


 イリスは、ほんの少しだけ首を傾げる。

「形式だけで構いません」


「公的に“関係がある”状態を作る」

「そのうえで」


「適切な形で解消する」

 淡々と言う。

 一瞬の沈黙。


「……お姉様」

「それは」

 言葉を選ぶ。


「面白がっていらっしゃいますね?」

 静かに言う。

 一瞬の沈黙。

 イリスはわずかに目を細める。

「さて」


「どうでしょうか」

 否定はしない。


「それでも重要なのは」


「あなたが望む結果です」

 静かに言う。

 視線が重なる。


 逃げ場はない。

 だが、道は示されていた。



 噂は広がる。

 理由もなく。

 だが、収めるには。

 理由が、必要になる。


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