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問題はないという報告

――帝国暦三二一年・春初め東ロンバルディア帝国騎士団領 ヴァイス邸/総庁――


 ■ヴァイス邸 客間

 イリスは席についていた。

 向かいにはメイドのメリッサ。

「報告を」

 短く言う。

「はい」

 メリッサは一礼する。

「件の噂について、調査を行いました」


「発端は総庁でございます」

「ただし」

「拡散の加速は、第七騎士団内」

 一瞬の間。

「リリア様の発言によるものかと」


 イリスはわずかに目を細める。

「……内容は」

 促す。

「祝福の言葉でございます」

「“おめでとうございます”と」

 短い間

「それが、事実として扱われております」


 イリスは静かに頷く。

「なるほど」

 カップに手を伸ばす。

 香りを含む。

「現状は」

 問う。

「結婚を前提とした関係と認識されております」

 淡々とした報告。


 イリスは少しだけ間を置く。

「……そうですか」

 そして。

「しばらく様子を見ましょう」

 それだけだった。

「かしこまりました」

 メリッサは一礼する。


 一瞬の静寂。

 湯気がゆらぐ。

 話は、終わった。

 だが興味は、続いていた。


 ■第七騎士団 本庁

 エリシアが報告書を閉じる。


「以上が現状です」

 レオンは聞いていた。

「……そうか」

 短く言う。


「総長には?」

 続ける。

「報告を求められています」


 レオンはわずかに考える。

 ほんの一瞬だけ。

 そして。

「……問題ないと伝えろ」

 短く言う。


 エリシアの手が止まる。

「問題ない、とは」

 確認する。

「当人が否定している」

 レオンは答える。


「いずれ収まる」

 それだけだった。

 一瞬の沈黙。

 エリシアは何も言わない。

 ただ、書き留める。

「……承知しました」


 そのまま立ち上がる。

 報告のために。


 ■総庁

「……そうか」

 総長は聞いていた。


「問題はないのだな」

 低く言う。

「はい」

 短い返答。

 一瞬の沈黙。

 総長は目を閉じる。


「……順調か」

 小さく呟く。

 一瞬、口元がわずかに歪む。

「……なるほど」

 静かに言う。


 その表情は。

 喜びではなかった。

 ただ何かを、決めた顔だった。


 誤解は、訂正されることなく、少しだけ、形を変えて広がっていく。誰も、間違ったことは言っていない。


 それでも、話は少しずつ。

 違う形へと変わっていた。


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