増えない戦力
――帝国暦三二〇年・春初め
東ロンバルディア帝国騎士団領
第七騎士団 執務室――
机の上の書類は、減らない。
「減ってないよな」
「減っています」
「体感が違う」
「気のせいです」
レオンはペンを置く。
「……なあ」
「なんでしょう」
「人、増やせないか」
「既に最適配置です」
「そうじゃなくて、こう……楽になるやつ」
「存在しません」
「そうか」
夢がない。
「どちらへ」
「増援の確保」
数刻後。
「呼ばれて来てやったぞ」
クリスが入ってくる。
「手伝え」
「やだ」
「即答か」
「即答だな」
クリスが勝手に座る。
「俺は現場担当だぞ」
「今は暇だろ」
「否定はしない」
エリシアの視線が刺さる。
「クリス」
「なんでしょう、副官殿」
「書類の処理をお願いします」
「無理です」
「なぜですか」
「読めないからです」
「簡単なものからで構いません」
「全部難しく見える」
「気のせいです」
「お前もそれ言うのか」
(……だめだな)
「少しはやれ」
「少しならな」
数分後。
「……なあ」
「なんでしょう」
「これ、どうすればいい」
「読んで下さい」
「読んでる」
「理解してください」
「出来ない」
「……だめだな」
「駄目だな」
同時。
「役に立たないと判断します」
「ひどくない?」
「事実です」
クリスは立ち上がる。
「じゃあ俺は現場戻る」
「最初からそうしてくれ」
去り際。
「……無理すんなよ」
「してない」
扉が閉まる。
「……他も呼ぶか」
「推奨しません」
「試すだけだ」
――数分後。
「失礼します!」
「呼ばれました!」
「お役に立てれば!」
騎士が数人、入ってくる。
やる気はある。
「これ、処理できるか」
書類を渡す。
数秒後。
「……あの」
「難しいです」
「どこから見ればいいんでしょうか」
素直だった。
エリシアの目が細くなる。
「読んでください」
「読んでます!」
「読めてはいます!」
「意味が……!」
「理解してください」
「出来ません!」
元気よく即答。
レオンは天井を見る。
(増えても意味ないな)
「戻れ」
「はっ!」
勢いよく去っていく。
静かになる。
「……増えないな」
「はい」
「戦力」
「はい」
短い会話。
「……やっぱ二人でやるか」
「はい」
迷いがない。
書類が動き出す。
「エリシア」
「はい」
「さっきの続き、頼む」
「承知しました」
自然に回る。
(……楽なんだよな)
任せれば回る。
(……これでいいのか)
ほんのわずかに、引っかかる。
夜は長い。
仕事は終わらない。
それでも二人でなら、回ってしまう。
それが――
いちばん、厄介だった。




