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やめたい騎士団長は、なぜか昇進し続ける  作者: サザルト
第1章 騎士団長編

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第11話 増えない戦力

 ――帝国暦三二〇年・春初め 東ロンバルディア帝国騎士団領 第七騎士団 執務室――


 机の上の書類は、減らない。


「減ってないよな」


「減っています」


「体感が違う」


「気のせいです」


 エリシアは淡々と答える。


 レオンはペンを置いた。


「……なあ」


「なんでしょう」


「人、増やせないか?」


「既に最適配置です」


「そうじゃなくて、こう……楽になるやつ」


「存在しません」


「そうか」


 夢がない。


 レオンは立ち上がった。


「どちらへ」


「増援の確保」


 数刻後。


「呼ばれて来てやったぞ」


 クリスが執務室に入ってきた。


 レオンは書類の山を指さす。


「手伝え」


「やだ」


「即答か」


「即答だな」


 クリスは勝手に椅子へ座る。


「俺は現場担当だぞ」


「今は暇だろ」


「否定はしない」


 エリシアの視線が刺さった。


「クリス」


「なんでしょう、副官殿」


「書類の処理をお願いします」


「無理です」


「なぜですか」


「難しくて読めないからです」


「簡単なものからで構いません」


「全部難しく見える」


「気のせいです」


「お前もそれ言うのか」


 レオンは、すでに嫌な予感がしていた。


 そもそも騎士は、剣を持って現場に立つ者だ。報告書を書くことはあっても、執務室で山積みの書類を処理するために鍛えられているわけではない。


 大多数が苦手なのは、ある意味当然だった。だが、当然だからといって、目の前の書類が減るわけでもない。


「少しはやれ」


「少しならな」


 数分後。


「……なあ」


「なんだ」


「これ、どうすればいい」


「読んでくれ」


「読んでる」


「理解してくれ」


「できない」


 レオンとエリシアが同時に言った。


「だめだな」


「だめですね」


「ひどくない?」


「事実です」


 クリスはあっさり立ち上がった。


「じゃあ俺は現場に戻る」


「最初からそうしてくれ」


 扉へ向かいかけたクリスが、ふと振り返る。


「……無理すんなよ」


「してない」


「してるやつの返事だな」


 それだけ言って、クリスは出ていった。


 扉が閉まる。


 しばらく沈黙が落ちた。


「……他も呼ぶか?」


「推奨しません」


「試すだけだ」


 数分後。


「失礼します!」


「呼ばれました!」


「お役に立てれば!」


 騎士が数人、勢いよく執務室に入ってきた。


 やる気はある。

 それは分かる。


「これ、処理できるか」


 レオンが書類を渡す。


 数秒後。


「……あの」


「難しいです」


「どこから見ればいいんでしょうか」


 とても素直だった。


 エリシアの目が細くなる。


「読んでください」


「読んでます!」


「読めてはいます!」


「意味が……!」


「理解してください」


「できません!」


 元気よく即答された。


 レオンは天井を見る。


(まあ、そうなるよな)


 責める気にはなれなかった。


 彼らは剣を持たせれば頼りになる。


 巡回も、警備も、訓練も、現場なら迷わず動く。だが、書類の山を前にした瞬間、戦力ではなくなる。


 適材適所という言葉は、残酷だった。


「戻れ」


「はっ!」


 騎士たちは勢いよく去っていった。

 やる気だけは最後まで立派だった。


 執務室が静かになる。


「……増えないな」


「はい」


「戦力」


「はい」


 短い会話だった。


 レオンは椅子に戻る。


「……やっぱり二人でやるか」


「はい」


 エリシアに迷いはなかった。

 すぐに書類が動き出す。


 分類。

 確認。


 判断待ち。

 差し戻し。


 エリシアが流れを整え、レオンが必要なところだけ判断する。それだけで、止まっていた仕事が少しずつ進んでいく。


「エリシア」


「はい」


「さっきの続き、頼む」


「承知しました」


 自然に回る。

 あまりにも自然に。


(……楽なんだよな)


 任せれば回る。

 聞けば返ってくる。


 迷えば整理してくれる。

 それが、当たり前になりつつある。


(……これでいいのか)


 ほんのわずかに、引っかかった。


 夜は長い。

 仕事は終わらない。


 人を増やしても、戦力は増えない。

 それでも二人でなら、回ってしまう。


 それがいちばん、厄介だった。


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