優しい勘違いのその後
――帝国暦三二一年・春初め 帝都・総庁――数日後。
「……またか」
レオンが言う。
「はい」
エリシアが答える。
「総長からの呼び出しです」
「多いな」
「ええ」
短いやり取り。
二人は歩く。
総庁の廊下を。
「……面倒だ」
レオンがぼそりと言う。
「同意します」
エリシアが即答する。
一瞬の静寂の後、扉の前で止まる。
「失礼する」
レオンが言う。
扉を開ける。
一瞬の静寂。
――刃が来る。
レオンは動く。
受け止め、そのまま止める。
一瞬の静止。
「……乱心か?」
真顔だった。
総長が睨む。
「お前か!」
「お前なのか!!」
レオンは首を傾げる。
「何の話だ」
短く返す。
総長は剣を引かない。
「とぼけるな」
「メリエラだ」
レオンは考えない。
「……何だ?」
エリシアが一歩出る。
「閣下、まず説明を」
冷静に言う。
総長が剣を下ろす。
だが視線は外さない。
「総庁に、メリエラの相手がいる話を聞いた」
短く言う。
レオンはエリシアを見る。
「知らない」
即答だった。
エリシアが少し考えて言う。
「そのような噂はあります」
淡々と。
「総庁内で親しくしている者がいると」
総長が頷く。
「だから調べた」
「だがここには、いない!」
低く言う。
「該当者がいない」
一瞬の沈黙。
エリシアが眉をひそめる。
「調査方法は?」
確認する。
「……斬りかかって聞いた」
一瞬。
空気が止まる。
エリシアが目を閉じる。
「……なるほど」
理解したくない理解だった。
総長がレオンを見る。
「だから」
「お前だと思った」
真顔だった。
「昔からお前を何故か慕っていた」
続ける。
レオンは止まる。
「……知らない」
それだけだった。
一瞬の沈黙。
総長が黙る。
空気が止まる。
エリシアが口を開く。
「確認します」
短く言う。
「必要であれば、調査を」
淡々と。
即座にレオンは頷く。
「任せる」
短く。
総長が二人を見る。
そして。
「……頼む」
低く言う。
どこか、期待した顔で。
二人は踵を返す。
部屋を出る。
一瞬の静寂。
総長は一人残る。
椅子に座る。
小さく息を吐く。
「……待つか」
「楽しみだ」
静かに呟く。
その表情は。
どこか穏やかだった。




