優しい勘違い
――帝国暦三二一年・春初め帝都・総庁――応接室。
レオンは呼ばれていた。
向かいには、総長。
「……久しいな」
低く言う。
レオンは頷く。
「そうだな」
短く返す。
一瞬の沈黙。
総長が、わずかに口元を緩める。
「さて」
軽く前に乗り出す。
「メリエラはどうだ」
声音が、少しだけ柔らかい。
レオンは見る。
「問題ない」
短く答える。
「有能だ」
それだけだった。
総長の表情が、わずかに緩む。
「そうか」
満足げに言う。
だが、止まらない。
「具体的にはどうだ?」
「業務量は」
「対応は」
「判断は」
矢継ぎ早だった。
レオンは答える。
短く、必要な分だけ。
間が空く。
総長はまだ聞く気だった。
レオンが、わずかに目を細める。
「……多い」
ぼそりと言う。
一瞬の間。
総長が止まる。
「何がだ?」
「質問が」
即答だった。
総長が小さく息を吐く。
「……そうか」
苦笑する。
だが。
「問題点は?」
まだ続ける。
「ない」
レオンは即答する。
ようやく、総長が頷く。
「そうか」
短く言う。
一瞬の静寂。
面談は終わる。
■第七騎士団 本庁
レオンとエリシアが戻る。
リリアが顔を上げる。
「お帰りなさい」
柔らかく言う。
レオンが席につく。
「総長に呼ばれた」
短く言う。
「メリエラの話だ」
続ける。
リリアが頷く。
「総庁、ですか」
少し考える。
そして。
「……よく聞かれたのですね」
静かに言う。
レオンが頷く。
「……ああ」
短く答える。
リリアはさらに考える。
ほんの少しだけ。
そして。
「……大切にされているのですね」
柔らかく言う。
空気が止まる。
レオンは何も言わない。
理解していない。
一瞬、エリシアの手が止まる。
ゆっくりと顔を上げる。
リリアを見る。
次に、レオンを見る。
そして。
小さく、息を吐く。
(……違う)
(完全に、違う)
だが、何も言わない。言えない。
(……やはり)
一瞬。
(兄妹ですね)
誰もその言葉を口にしない。
ただ執務室には、いつもの音が戻る。
紙の音、ペンの音。
そして。
また一つ。
話だけが、静かにずれていた。




