表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/155

それは知らないことだ

――帝国暦三二一年・春初め 帝都・書籍街――午後。


 三人は店を出ていた。

 手には、簡易な地図。


「……帝国の外は」

 レオンが言う。

「どこまで続いている?」


 イリスが止まる。

「……はい?」


 レオンは地図を見る。

「境界はどこだ?」

 続ける。


 イリスが、ほんの少し目を見開く。

「ご存知ないのですか?」

 静かに聞く。


「知らない」

 即答だった。

 一瞬の沈黙の後。

 レオンが続ける。

「外は……全部、荒野か?」


 イリスが固まる。

「……いえ」

 少し間を置く。

「国家や都市が存在します」


 レオンは頷く。

「そうか」

 続ける。

「帝都まではどのくらいかかる?」


 イリスが答えようとして。

 止まる。

「……移動手段は?」

 確認するように聞く。


「歩きだ」

 即答だった。

 一瞬でイリスの思考が止まる。

「……歩き??」

 小さく復唱する。


「……徒歩ですか」

 一瞬の沈黙。

「……数週間、かと」

 やや曖昧に答える。


 レオンは地図を見る。

 何かを考えている。


 そして、顔を上げる。

「……すまない」

 短く言い、今度は軽く頭を下げる。


 二人を見る。

「自分は常識が足りない」

 一瞬、言葉を選ぶように。

 少しだけ間を置く。

「それでも」

 続ける。

「付き合ってくれて助かる」


 視線がエリシアへ。

「エリシア」

 短く呼ぶ。


「……当然の務めです」

 いつも通りの返答。

 だが、ほんの少しだけ間があった。


 次に、イリスを見る。

「ありがとう」

 それだけだった。


 イリスが、わずかに目を細める。

「いえ」

 柔らかく答える。

「当然のことをしたまでです」


 少しだけ、空気が落ち着く。


 その時、後ろから気配。

 エリシアが止まり、振り返る。


 リリアとメリエラがいた。


 完全に止まる。

 目が合い、一瞬の静寂。

「……」

 エリシアが目を細める。


「戻りなさい」

 短く言う。


 リリアが言葉を探す。

「……その」


 メリエラは何も言わない。

 ただ見ている。


「業務に戻ってください」

 エリシアが続ける。

「これは団長の用件です」


 完全に線を引く。

 一瞬の間。

 リリアは小さく頷く。

「……はい」


 メリエラも、静かに一礼する。

「承知しました」


 二人はそのまま引く。

 去っていく背中。

 一瞬の静寂。

 イリスが小さく呟く。

「……徹底していますね」


 エリシアは答えない。

 ただ前を向く。


 レオンが言う。

「戻るか」

 短く口を開く。


 三人は歩き出す。

 春の空気の中。

 ただ少しだけ。

 空気が柔らかくなっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ