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それは値段ではない

――帝国暦三二一年・春初め 帝都・書籍街――午後。


 人が多い。

 春の空気。

 通りは賑やかだった。

 三人は歩いている。

 レオン、エリシア、イリス。


「……多いな」

 レオンが言う。

「春ですので」

 イリスが答える。


 エリシアは周囲を見ている。

 少しだけ警戒している。

「こちらです」

 短く言う。


 ■書店

 中に入る。

 紙の匂い、静かな空間。


「地図はどこだ」

 レオンが聞く。

「こちらです」

 店員が案内する。


 棚に並ぶ地図。

 レオンが手に取る。

「……読めるな」

 短く言う。


「簡易的なものです」

 エリシアが補足する。

「一般向けです」


 レオンは頷く。

「これでいいか」

 即答だった。


「お待ちください」

 イリスだった。

 別の棚へ向かう。

 暫く後、戻ってくる。

 厚い本を抱えて。

「こちらはいかがでしょう?」


「詳細な地形と交通路」

「周辺国家の動向も含まれております」


 レオンが見る。

「良さそうだな」

 即答する。

 直ぐ様

 エリシアが止める。

「お待ちください」


「高価です」

 即断だった。

 店員が言う。

「この品は金貨三十枚になります」


 空気が止まる。

 レオンは考える。

「それは高いのか?」


「高いです」

 エリシア即答。


 イリスは微笑む。

「価値はあります」


 エリシアは揺れない。

「過剰です」

 短く言う。

 レオンが二人を見る。

「違いは何だ」

 真面目だった。


 イリスが答える。

「網羅性です」

 即答。

 

 エリシアが続ける。

「価格です」

 こちらも即答。

 

 一瞬の沈黙のあと。

「安い方でいい」

 レオンの即断だった。


 その時、別の場所で。

「それを」

 声がする。


 メリエラだった。

 棚の前に立っている。

「こちらを購入します」

 静かに言う。


 店員が頷く。

「かしこまりました」

 その隣。

 リリアが立っていた。

「……それは」

 小さく言う。


 メリエラが見る。

「団長への贈り物です」

 淡々と。

 リリアの呼吸が止まる。

「……私も買います、」

 小さく言う。


「それを」

 一瞬の沈黙。

 店員が困る。

「申し訳ありません」


「一点のみでして」


 空気が張る。

 メリエラは動かない。

 リリアも引かない。


「では」

 メリエラが言う。

「先に手続きを」

「待ってください」

 リリアが止める。


 小さな、しかし確かな衝突だった。


 その空気に。

 エリシアが気づき、振り向く。

 そして。

「……どうしてここにいるのです?」

 低く言う。


 リリアとメリエラが止まる。


 続けて。

「……何をしているのですか?」

 さらに低く。

 空気が凍る。


 メリエラは沈黙する。

 リリアも言葉を失う。


「ここは公の場です」

 エリシアが続ける。

「私情を持ち込まないでください」

 はっきりと。


 二人は完全に固まる。


「……失礼しました」

 メリエラが言う。


 リリアも小さく頷く。

「……すみません」

 短く答える。


 一瞬の静寂。

 場は収まる。


 だが。

 メリエラは思っていた。

 後日、購入すると。


 リリアもまた。

 同じことを考えていた。


 店を出る。

 春の暖かい空気。


 三人は何も知らない。

 ただ歩いている。


 その後ろで。

 また一つ。

 話だけが。

 静かに、進んでいた。


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