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転生聖女の幸福譚〜よくある断罪劇をぶち壊したら、悪役令嬢との疑似百合ルートを生成してしまったようです~  作者: 白野真白
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これは何の舞台なのか

「――汝が冥府の闇を恐れるというなら、私自身がその闇を飲み尽くそう」

「天の許しなど、必要ありませんわ。あ、あなたさえ――」


「きゃーーーーーー!!!!!!」


「はい、ここまで!ローザリア様、完璧ですわ!

 リリエル様、その少し恥じらう感じがとっても可憐だわ。さすがね。

 そうね……この場面、もう少しセリフを長くして――」


(えええええ!?噛んだだけなのに!?まだ聖女フィルターかかってるの?)



 ――放課後の劇の練習が始まった。


 台本は、隣のクラスの数人が担当したらしい。

 もともとの古典は難解だからと現代風のセリフに構成しなおして、なんならちょっと市中で流行っている話にも寄せたオリジナルストーリーが、三日とたたずに出来上がった。


 これに合わせて、なんと演奏曲も制作するらしい。

 これもまた、音楽系に強い子女たちが中心となって進めているとのことだ。

 才能を隠している人がこんなにもいたことに驚く。


(と言うか、私って、本当に光を扱える以外の特技、ないんだけど?

 それなのにこんなに特別扱いされてるなんて――

 なんだか一層肩身が狭い……)


 台本担当と演出担当が話し込んでいる間、ローザリア様は男子生徒と殺陣の練習をしている。


(ローザ様が真剣に練習してる……っていうか、上手い。格好いい。もともと強いのは知ってたけど、魅せる力が桁違いだわ)


 さすが、「きゃぁきゃぁ言われてなんぼ」と豪語しただけのことはある。

 身のこなしも、響く声も、すべてが完璧な騎士そのものだ。


(はぁ。私も練習しなきゃ……発声練習からかな……)


 才能もないのに役割だけ与えられてしまったから、基礎から地道にやるしかない。


 ぐっと台本を握りしめなおした、その時だった。


「リリエル様! ローザ様! 大変ですわ!!」


 ホールの重厚な扉が勢いよく開き、クラス委員が顔を真っ赤にして駆け込んできた。


「な、何事……? 緊急事態?」


「ええ、緊急事態ですわ! 生徒会から連絡がありまして……今回の合同演劇、学校側の『特別推奨プロジェクト』に格上げされましたの!」


「……推奨、プロジェクト?」


 聞き慣れない単語に首を傾げると、クラス委員は興奮で鼻息を荒くしながら続けた。


「予算が当初の倍……いえ、三倍近くまで増額されるということですわ! 

 舞台装置には最新の立体幻影魔法を導入し、そして何より!」


 彼女は私の肩をがっしりと掴んだ。


「リリエル様のドレス、シルクだけじゃなく『光る魔法糸』を織り込んだ特注品に変更しますわ! 

 王都一の職人を抑えてくださったのよ!」


「……はい?」


 ちょっと頭がついていかない。

 魔法糸のドレス。

 数年前に王妃様が身にまとって一気に有名になった、着ているだけで星のように光を放つという、あの。


「これで、ローザ様の騎士服とのコントラストも完璧ですわ……! ああ、一般客の皆様もお二人のまばゆい姿に卒倒してしまいますわね!!」


(……ちょっと待って。それ、もう学園祭の規模を軽く超えてない!?)


「っていうか、職人を抑えたって、学園が……?」


「いいえ! 王太子殿下ですわ! はぁ……さすがの器の大きさと言わざるを得ませんわ……」


 殿下は謹慎があけたあと、しれっと学校に戻ってきて、何事もなかったかのように事務を回している。


 でもまさか、こんなに協力的だなんて。

 魔法糸の流通には王家が関与しているから、そもそも魔法糸を使えることそのものが王家の後押しを意味しているのだ。


(――私のこと、ちょっとも恨んでないのかな)


 そんなつまらない私怨で行動を変えるような人じゃないということくらい、短い付き合いだけど十分にわかっている。


 でも、遺跡イベント前の異常な遭遇率が嘘みたいに、今は殿下に会うことがほとんどないのだ。断罪劇以来話す機会を持てないでいることが、妙に引っかかっていた。


(……変なの。聖女フィルターは健在なのに。こんなところでゲームが終わったって実感するなんて)


「ふふ、殿下も神殿に圧をかけることにしたのね。方針転換、かしら」


 ローザ様がこっそりと耳元で囁く。


「――実はクロイツ家もこの劇に寄付するのよ。もちろん、神殿への牽制も兼ねてね」


「あ、なるほど、予算の大きさはそれもあるのね」


「ええ。公にはしないけれど。……リリィは、困る?」


「ううん、まったく。私だって、あの時のことまだ許してないんだから」


「ふふ、それなら良かったわ。もし神殿になにかあっても、リリエルのことはクロイツ家と王家が責任をもって守るから、そこは安心してね?」


「ローザ様……」


 ――って、王家も?


 私の疑問を察知したのか、ローザ様が耳に口元を寄せる。


「ーー結構本気で、権力構造を変えようとしているみたいね。

 陛下も食えないけれど――ジュリアン殿下もああ見えて本気を出したらなかなかよ?

 さて、どうなるかしら」


 楽しげに、けれど底知れない温度を孕んでローザ様が口の端を吊り上げる。

 なんだか、悪役令嬢みたいだ。

 いや、それは合ってるんだけど、なんだか色々あべこべだ。


「ローザ様はーー」


 言いかけて、やめた。

 あんなことがあったのに、ローザ様の殿下への信頼は揺らいでいない。

 多分、修道院送りになったとしても変わらなかったのだろう。


 ローザ様が「悪役令嬢」として達観しているせいだと思っていたけれど、ちょっと違うんじゃないかという気が、最近している。


 私が入り込めない、何か。


(ちょっと!この感情は良くない!

 ほんとに百合ルートになっちゃう!!)


「ーーリリィ?」


 私の葛藤を知ってか知らずか、ローザ様が私の頬を意味ありげに撫で上げる。


「ローザさーー」


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


「あぁもう!うるさい!!」


 余りの熱量に、思わず反射で叫んでしまう。

 なんか色々割り切れてきた。


「まぁ!リリエル様が邪魔をされて怒っていらっしゃるわ!

 かわいい!尊い!」


「だから!違うから!!ローザ様も楽しむのやめて!!!」


「あら?私は本気よ?」


「何が!?」


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 わざと低めの、心臓の奥まで響くような声音で言ってのけたローザ様に、もはや地割れのような叫びがホール中に響き渡った。


(いい加減にしてよ―――――!!)



 ーー生成してしまった百合ルート。

 自然消滅が狙えないどころか、悪役令嬢のノリと殿下の援護によって強化されてしまったらしい。


 私はまたもや、がっくりと肩を落とした。








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