[二部九章]従者の語らい(後編)
後編です。
『ふーん。‥‥‥‥‥何、努力で這い上がった人間は評価する質だったわけ。お前。』
そう頬杖を突きながら言うと、ノワールはこくりと頷く。
「えぇ。初めて見ました。才能ではなく、ただの努力であそこまで上り詰めた人間を。‥‥‥あぁ言った存在は、非常に貴重です。本来であれば誰かと契約させ、不老長寿にしたいところですが。‥‥‥‥“彼”は、そうではない人種だと思いましたので。‥‥‥‥何もしておりませんよ。本当に。」
そう言われて、納得せざるを得なくって変な声が出た。
『はー、葵みたいに、持ち合わせた才能をフルに活躍させて、ほぼ不老不死?の権能をこれでも買って使ってお前みたいな古の怪物に勝利するやつに興味を示したかと思えば、そうじゃない、ただの人間である‥‥‥‥‥なんだっけ?伽羅繰?そいつみたいにただの努力だけで天才や鬼才をも超える才能を得る人間の事も評価すると。‥‥‥‥‥‥ほーん。』
なんだかなぁ、そう思って、じっとこいつを見つめる。
‥‥‥‥悪魔ってのは良くも悪くも自身の興味本位で動く存在だ。‥‥‥‥他者がどうこう言ってところでその話なんか聞いてるかどうか怪しい。というかこっちが話している間に、どんな拷問をしてみようかなんて考え始めるような連中だ。‥‥‥‥‥俺は、そういうのが嫌だし、葵と契約できたからそんな“悪魔らしい”考え方は持ち合わせちゃいないわけだけれど。
「それで?内亜。せっかく私がここに立って差し上げているのです。要件の続きをどうぞ。」
なぁんか厭味ったらしい言い方するなコイツ。
そう思う心をそのまま表に出して、俺はノワールに遠慮なく問う。
『‥‥‥‥‥‥‥葵と、文人。釣り合うと思うか?』
「マスターは、彼の“闇”、深淵とも呼べる、我々悪魔に近いような性質を理解していない。純真無垢であるが故に。
そして、寿文人。彼は、マスターが本来どこまで純真無垢な存在なのかを知らない。理解していない。そういったすれ違いはあれど、良いと思いますよ。あの空気感は、人間の番たちでも早々出せないような‥‥‥‥‥‥そうですね。安心感、でしょうか。そんなもの、私共には不要でしたから。マスター達であれば、幾多のすれ違いを受けながらも乗り越えてゆくのではないでしょうか?」
全く。こいつは本気で底意地が悪い。
『お前それ、“葵と文人はめっちゃ苦労するけどそれ見てるのは面白いから良いんじゃね?”って言ってるのと同義だけど。』
「おや。そのように聞こえましたか?」
『それ以外の意図があるんならご教授願えますかね?悪魔の王様?』
そう言って挑発するように言うと、にっこりと微笑んで諸手をあげてみせるノワール。
「大正解、と言ったところでしょうか。まぁ、そういうあなたも、マスターの事は心配していても、ちょっとは楽しみだな、なんて顔をしているではありませんか。おあいこですよ、おあいこ。」
『お前と一緒にされてもねぇ』
ケラケラと笑いながら、適当にその辺にあるボトルとグラスを勝手にとってアルコールを注ぎ、それを一気に飲み干す。
「全く。手癖の悪い客ですね。」
『はー、客だとは見ているわけだ。‥‥‥‥まーじでお前変わったな。‥‥‥やぁ、良い意味で。』
「それはどうも。では代金は後から徴収ということで。」
『グラスちょっと汚したくらいでそれかよ。量については俺の魔力だろ、関係ないだろ、しかもグラスも毎回ちゃんと洗浄の術式かけてから渡してんだろ??』
全くなんというか、こいつは本気で悪意があるのか無いのか分からない時がある。
「分かっていますが、目障りですので。」
『よし表出ろ。何でもありで勝負だ。久々に。』
「おやおやおや、悪魔としての力比べではかなわないからとあなたの有利な方法で勝負を挑むとは嘆かわしい。」
『うっせえ。それ込みで俺だろ。うだうだと言うんじゃねえよ』
「はー‥‥‥‥‥‥仕方ありませんね。良いでしょう。と、言いたいところでしたが、残念。私めにはこの後伽羅繰様との歓談が御座いますので。」
『はぁ?!‥‥‥‥うっわ本気かよ、お前マジで変わったな。‥‥‥‥‥仕方ねぇから今度にしといてやるよ。』
「はい。今度こてんぱんにやってやりますね。」
『こてんぱんって、死語だぞ、お前、最近もしかしなくともその人間から色々と影響受けすぎてんな?』
悪魔同士、従者同士の語らいは続く。
けれど、互いに分かり合えない部分はあれど、きちんと相手の話位は聞いていて。
(少しくらいは、面白いんだよな。こういうのも。)
絶対、絶対絶対当人(?)には言わないけれど。
面白いのに変わりはなくって。
(葵と文人、か‥‥‥‥‥‥正直、どうなることやらやってみないと分かんないってのが双方の見解だな。後で未希にでも相談してみるか?‥‥‥‥‥いや、あいつは結構快楽主義者なところあるからな。‥‥‥‥‥‥ま、いいか。どうせ、葵についての話‥‥‥今後の拠点の防壁の話とか、いろいろと話さないといけない部分はあるし。)
カウンター越しの悪魔の王がいなくなった、がらりとしたバーで一人、手元のアルコールの残りを一気に仰ぐ。
少し胸焼けしそうなくらいの度数だったけれど、それくらいなら誤差の範囲だ。
(さーてと、どう暗躍したもんかねぇ。)
悪役になれない悪魔は、一人、静かな空間で思考を巡らせる。
九章なっが。‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥もうすぐ終わります。多分。




