[二部九章]イヴァン
タイトルがネタバレ。
ゆっくりと扉が開く。
「やーはろー。葵ちゃん、体調大丈夫?」
そう言って現れた未希姉は、あの少年を連れていた。
宇宙からの色のような、綺麗な色彩の髪と、プリズムのような瞳。
まだ魔力が落ち着かないのか、色彩は一秒ごとに変わっているけれど、それももうしばらくじっとしていれば治まるはず。
‥‥‥‥‥と、普通に見つめてしまったけれど、彼はどうやら呪縛からは抜け出せたようで、本来の性格であろう臆病さをこれでもかと表に出して未希姉の後ろに隠れてしまった。
『‥‥‥‥‥大丈夫、おいで。』
そう言って手を差し出してみると、おずおずと言った様子で顔をひょっこりと覗かせる少年、イヴァン。
「ほらほら、行っておいで、ね?」
私に似ている未希姉に背中をとん、と押されて、おろおろしながらも未希姉の前に出てくるイヴァン。
「葵、彼、葵の事ずっと気にかけてた。最初は僕も警戒してたんだけどさ、未希さんが言うに、もう天上?からの支配も呪縛もマーキングもなくなってるっていうから、この家で保護することにしたんだけど。‥‥‥‥如何せん、人見知りする子みたいでさ、未希さんからずっと離れなかったんだよね。」
未希姉の空気感は、こう、看護師さんとかお医者さんとかやっているだけあって誰でも親しみやすい空気を持っている。
だからだろうか。ちょっと彼が未希姉の方をちらりと確認してから、こちらに来て良いものなのかおろおろしている。
‥‥‥‥‥‥その姿が、あまりにもいじらしくって。可愛いなぁ、と思う。
だから、
『イヴァン。おいで?』
ベッドから降りて、両の手を広げてみる。
「‥‥‥‥‥、っ」
意を決したように私の腕の中へと飛び込むイヴァン。
そのぬくもりを感じて、あぁ、助けられてよかった。そう感じた。
『イヴァン。もう怖くないよ。大丈夫。』
そう言ってとん、とん、と幼子をあやすように軽く背中を叩く。
「‥‥‥‥‥‥‥うん。」
すり、と猫のようにすりついてから、反応が無くなった。
と思ったら、寝息が聞こえてきた。
『‥‥‥‥‥‥ありゃ、未希姉?』
「うーん、彼、ずっと起きてたみたいだし。ずっと天上の誰かわかんないけど、誰かさんから支配され続けてたからね。‥‥‥‥‥私にもくっついてくることは無かったんだけど、きっと、葵ちゃんのぬくもりで安心したんじゃないかな。」
「‥‥‥‥‥‥‥へぇ。」
少し、空気感が冷たい人がいる気がするけれど気のせいだと思っておこう。
『言語から、多分ロシアの地方の少数民族から引き抜かれたっぽいね。ちょっとした訛りがあるし。文字の方はどうだった?』
「ぜーんぜんだめ。書けない。多分本当に民族の中の事しか知らなかったのに、引っこ抜かれたか、連れ去られたか。‥‥‥‥‥‥その民族はまずもう絶えてると考えてよさそうだけど。」
やっぱりか。と思う。
アザトースの性質を宿していたとしても、宿す前の彼の髪や瞳の色という物がある。
黒髪黒目なら、内亜のようになるだろう。けれど、彼の色はそれとは全く違う。
‥‥‥‥‥‥元々の私や、未希姉のように、アルビノと言う訳でもなさそうだ。
つまり、本当に真っ白、あるいは銀髪に銀か灰色の瞳。
そんなの、いくら北方の色素が薄い人でも、太陽の下に出るだけで惨いくらいの火傷になるはずだ。
だから、もっともっと北。その厳しい環境下で生きてきた少数民族だったんだろうっていうのは、想像に難くない。
『‥‥‥‥‥怖かったよね。ずっと。』
ぎゅっと彼を抱きしめて、瞳を閉じる。
天上の神々、それ以外の存在達。
それらについて、私はまだ何も思い出してはいない。けれど。
(絶対に、許すもんか。)
まだ見ぬ敵を見据えるためにも。私は、ぎゅぅっと彼を抱きしめる。
彼のような犠牲者を出させないためには、戦わないといけない。
‥‥‥‥‥‥戦い、か。
『文人。』
「言わなくってもわかるけど。でも、そう簡単にオッケーとは言いたくない僕の気持ちも分かってくれる?」
『うん。だからさ、手を貸してよ。イヴァンみたいな被害者を出さないためにも。』
そう言うと、一瞬の沈黙の後、文人が頷く気配がした。
「君が戦うなら。僕は君を守るために一緒に戦うよ。」
『ありがとう。なら、遠慮なく巻き込ませてもらうからね。』
そう言うと、苦笑する声が返ってきた。
「もう、容赦がないなぁ。‥‥‥‥そこが愛おしいけれど。」
『‥‥‥‥‥‥‥‥そっか。』
肯定も、否定もしない。
だって、それをするのはこの私の中の気持ちに整理がついてからにしようと思っているから。
『文人、ちょっと手伝って?一緒に寝るから、イヴァンと。』
「なんて?」
『え?イヴァンと一緒に寝るから、イヴァン運ぶのてつだ』
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥葵のそういうところだけはちょっとなぁって思うよ?」
『?まぁ、手伝わないならいいや。』
そう言って抱きかかえようとすると、そっと手を添えて手伝ってくれる文人。
「基本許可したくないんだからね。僕以外の男と密着するとか。」
「文人君文人君。君たちまだそんな関係じゃないでしょー」
「気持ちだけでも駄目です。僕が嫌です。」
「‥‥‥‥‥‥‥葵ちゃん、葵ちゃんの周りにつく存在って一癖も二癖もある存在しかいない気がするんだけどどうなの?」
『‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥さぁ?』
そんなの、私の知らないことだ。
とりあえずもう一眠りして、目が覚めたらあの子に連絡しよう。そう思って私は目を閉じる。
そういえば、ロシア語の筆記体って医療文字並に読めないみたいですね。あっはっはさすがにそんなことないだろうと調べたら大変なものが出て来ました。あんなの読めるか!!!!!!
ちなみに現状の戦力となる人物たちはみんな割とバイリンガルなので何語でも大体の国の言葉は話せます。
葵さんとか内亜とかは、話せない、分からない言語は魔術で変換して話してます。




