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[二部九章]助けたい。

タイトル通りです。


誰かの悲鳴を聞いた気がした。


「おはよう、葵。体調はどう?」


目を覚まして体を起こすと、文人にそう声をかけられる。


『問題ないよ。もうほとんど本調子。』


「‥‥‥‥‥もう、痛くない?」


そう、心配そうに問いかけてくる顔は、あまり好きじゃないなと思いながら、頷く。


『大丈夫。これでも、治癒能力は高い方なんだから。』


「それでも、痛かったことは事実でしょ。もう無理はしないでよ。」


そう請われるように言われても、ちょっと困る。

だって。


『あはは。』


だって、まだ救われていない人物がいるんだもの。


「笑ってごまかさないで。僕だって怒る時は怒るよ。」


『うん。分かってる。』


ずっと、目が覚めるまで一緒にいてくれたんだって分かってる。

私が怪我して倒れた後、ずっとずっと一緒にいてくれたことも知っている。

でも。


「‥‥‥‥‥‥葵」


『うん。』


「僕はさ、あんまり長い間葵と一緒にいたわけじゃない。だから、内亜やノワールさんの方がきっと、葵について詳しいんだと思う。」


『うん。』


「でもさ、少しだけだったかもしれないけど。僕にだって好きな子が今何を考えているかの想像位はつくよ。」


『‥‥‥‥‥‥うん。』


きっと、そうだろうなと思っていた。


だって、すごく痛そうな顔をするから。


すごく辛そうで、泣きそうな顔をしているから。


でも、ごめんね。


「でも葵は、行くんでしょ。」


『‥‥‥‥‥うん。』


どこへ、とは聞かれなかった。

だってきっと、彼にはもう分かっているだろうから。


「僕は、一緒に行っちゃだめなの?」


『‥‥‥‥‥‥来るのはいいよ。けれど、君は、“殺しちゃう”でしょ。』


「‥‥‥‥‥そう、だけど。」


きっと、簡単な事だったら彼を連れていって、一緒に行くか、あるいは任せてしまってもよかったのかもしれない。


けれど、今回は、簡単に終わらない。

だって見てしまったもの。

だから、反応が遅れてしまったんだもの。

あの不思議な髪の色をした刺客の少年は、泣いていた。

あの涙を見てしまって、つい、反応が遅れた。

だから、こんなに心配をかけた。

きっとこれからも、心配をかけ続けるんだろう。

内亜にも、嫌になるくらい嫌味を言われた。

未希姉には、ちょっと泣かれた。

ノワールはいつも通り微笑んでいたけれど。

しんぱい、させたことくらい、分かってる。


だから行かなきゃ。


『きっと、助けを求めてるはずだから。』


「そうじゃ、なかったら?」


そう問われて、少しだけ考える。でも。


『その時は、その時。』


そう答えると、ちょっとだけ呆れたように、文人は笑う。


「僕も、力になりたいんだけどな。」


『その時が来たら、思う存分に力を振るってもらうよ。あのムーンビーストの時みたいにね。』


ゆっくり、ゆっくりと成長して、ついてきてくれればいいと思う。

最近、ちょっと不思議なことに、文人がいることが自然なことになってきつつある。

ただ時を一緒に過ごしたからじゃない。

この関係をなんて言えばいいのかはまだ分からない。

けれど、誰かに教えてほしいとも思わない。

だって、この気持ちは私だけのものだから。


「ちゃんと、その時が来たら助けを求めてほしいな。」


そう言われて、私はこくりと頷く。


「全くもう、我が契約者サマの考えることは分からないよねぇ‥‥‥‥分かってる?一歩間違えばあの世行だったんだよ?それなのにその相手が泣いていたからって助けようだなんて、そんな考え、普通は持てない。」


内亜が、影から顔を出して文句を言う。

私だってきっと、内亜の視点だったら同じことを言っただろう。

でも、私は内亜じゃないし、内亜も私ができる範囲で私のやりたいことをしようとしていることを誰よりもよく知ってくれている。


『分かってる。大丈夫。勝算はある。』


「全く。‥‥‥‥‥んで?未希とかノワールには言わないんでしょ?どうせ。」


流石契約者。そこまで分かっているとは。


『ふふ、そうだね。だから文人も、よろしくね?』


そう言って微笑むと、ため息をつきながらも頷く文人。


「全くもう。そこで微笑むのは狡いと思うなぁ。僕が断れなくなるの分かってるくせに。‥‥‥で、葵。今夜にでも動くの?」


真っすぐに見つめられて、しっかりと頷く。


『怪我は大丈夫。そして、相手の手の内もわかった。大丈夫。居場所も、逆探知できてる。準備は万端。』


「そして夜中に出掛ける用意も万端、と。」


内亜が呆れ返ったように言う。

まぁ、そういうことだ。


「確かに文人がいたらそこらの異形は近づけないだろうけど、でも分かってる?“その子”を創りだした天上の存在が近くにいるかもしれないって事、念頭に置いてる?」


そう問われて、頷く。


『大丈夫。まだ私に埋め込まれた探知用の術式が壊されたことはバレてない。だって、デコイをちゃんと作っておいたから。』


「葵‥‥‥‥‥あんな傷で、あの状況で、そんなことしてたの?」


文人の声が少々怖い。


『まぁ、うん。それくらいはしておかないと、“回収”されちゃったら、救えなくなっちゃうからね。』


「ね?困った契約者でしょ?」


「本当に。ちょっとくらいお姫様みたいにおしとやかにしてくれててもいいのに。」


そういうのはそういうのが似合う子に任せてほしい。私はどっちかって言うと全速力でお城から逃げ出して街で生活をすることを好む人種だ。


『さて、じゃあ今夜。‥‥‥‥‥気引き締めていくよ。』


そう言って、悪だくみをする三人組。じゃ、一つ、人助けと行きますか。





最初の頃の葵さんだったら絶対に選ばなかったであろう選択肢。でも、今の葵さんは色々と代わって、色々と失って、色々と得て、ちゃんと意見を言える子になりました。

さいしょのつんつんしてるのも可愛いけど(親バカ

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