[二部九章]思わぬ再会
内亜ととある人とのお話です。合流前の幕間みたいな感じです
『うぁー‥‥‥‥‥やる気でない‥‥‥‥暇‥‥‥‥‥』
あの掃き溜めでぬくぬくと惰性を貪っていた俺の身体は、どうにもこうにも重たくって仕方ない。動かない。‥‥‥‥‥‥葵の為に、何かしたいとは思っているんだけどな。
『俺なんかができる事なんかたかが知れてるしなぁ。』
ただ、あの後アルマティアに急かされて、少しだけ“過去の自分”と向き合ってきた。
けど何か収穫があったかと問われると、何もないというのが本音だ。
(んー、流石にまずいかなぁ。役立たずになりかけてるのに、このまま何もしないでいるのは、あのゴミ野郎のノワールにすら負けそうでなんかやだ。‥‥‥‥いや、それも仕方ないのかもしれない。)
あぁ、分かっている。分かっているんだ。葵が俺の事をすごくすごく心配してくれていることくらい。
でも、契約の時に何か約束してほしいことは無い?って聞いても、あの子は何にも望まなかった。
一つ言われたことと言えば、‥‥‥‥‥‥あぁ、そうだ。
『“内亜は内亜の幸せを探して”、だっけか。』
全く。悪魔に対して契約の条件がそれってなんなんだよ本当に。
『あのお人好しが。』
ちょっとだけ吐き捨てるように呟く。
すると、誰かの気配がした。‥‥‥‥‥ここは誰もこれないようなスラムの奥深くのはず。だけどこの気配は‥‥‥‥‥ちょっと、スラムには似合わないくらいにお綺麗すぎる気配がする。
(あーあ、そんな無防備に歩いていたら身ぐるみ剥がされてどっかに捨てられるぞー‥‥‥‥‥?)
ふとその気配を感知した時、違和感を感じた。
『あれ、誰だ。』
知っているようで、知らない気配。ちょっとだけどんな人物なのかが気になって、そちらに足を向ける。
あれだけ重たかったはずの足取りは、なぜか重みを失っていた。
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謝りたかった。
できる事なら、全部貰ったものを返したかった。けれど、それをしてしまったら私は消えてしまう。
それをしたくないからこそ、彼女は私に大事なはずの物をたくさんくれた。だから、それを喪う訳にはいかないなと思った。
けど、今まで神様の言いなりだった私にとって、何の命令もなく動くというのは、目の前に何の道もない、真っ暗闇を手探りで進めと言われているみたいに恐ろしい事だった。
だから、知っている‥‥‥‥‥ううん。彼女の知人に会って、話を聞きたかった。
どうしたら彼女に恩返しができるのか。自分には何ができるのか。
そう思いながら旅を続けていたら、ふと、彼女と一番繋がりの強い人物の気配がした。
(でも、彼女がいない‥‥‥‥‥?)
なんでだろうか。その、彼女に一番近い“彼”は現在、一人でいるようだった。
しかも、場所はスラムの奥深く。‥‥‥何か、指示でも出されているのだろうかと思ったけれど、そうでもないみたいだった。
『‥‥‥‥‥‥行ってみよう。』
スラムの事は、知識としてしか知らない。
だから、実際に私がふらりと一人で入ったらどんなことが起きるかなんて、彼女からもらった記憶を探っても分からなかった。だって、記憶の中の彼女はいつだって誰かと共にいたから。
「おいおい、何なんだよ、そんなお綺麗な格好でこんなところに来たら危険だぜ?」
「まぁ、もう手遅れなんだけどな。とりあえず有り金出してもらおうか?」
こんな、えーと、チンピラ?猫の種類みたいな名前の人種が来るなんて記憶の中にはなかった。
『えっと、貴方方に用事は無いんですけど‥‥‥‥‥』
そう言ってみても、チンピラさん達は笑いながらナイフを取り出して私に突き付けて、低い声で語りかけてくる。
「お前に用事がなくってもこっちにはあるんだよ。痛い目見たくなかったらさっさと言うこと聞けよ。」
‥‥‥‥‥‥‥これは、脅されているのだろうか。
あぁ、多分そうだ。けれど、正直あんまり怖くない。記憶の中の人間?を名乗る師匠様や、ドラゴンと人間のハーフのお師匠様の方がよっぽど怖かった。
けど、ナイフが肌を滑ってしまったら、きっと怪我をしてしまう。
怪我をしてしまえば、私にたくさんの物をくれた彼女と同じ姿に傷がついてしまう。それは、ちょっと嫌だった。
だから。
『今すぐこのナイフをしまってください。だって、死にたくないでしょう?』
ぶわり、と魔力を放出して威嚇をする。‥‥‥‥‥人間でいう殺気、って奴だろうか。
「、な、何だお前!?」
少々たじろぐチンピラさん達。そりゃ、知らない力を見せつけられたらそうなるよね。でも、こっちも引けない理由の一つや二つくらいあるんだ。
『正気を失うか、命を失うか。どちらも嫌なら引いてください。そうしたら痛い目だけは見ないようにします。』
そう言いながら、鋭いプリズム片をいくつか生成して浮かべて威嚇する。
「な、なんだこれ、何なんだよ、お前は!!」
ちょっとやりすぎかもしれないなとか、彼らには悪いことしちゃうなぁとか、そんな風に思ったけれど、引けない。
そうやって数秒にらみ合いのような状態が続いてから、ぽん、と肩に手を置かれる。
「あのさ、もうちょっと上手くやってくんない?葵から色々貰ったんだったらさ。」
全く気配を感じなかった。
驚いて振り向くと、そこには
彼女の一番近くにいた、内亜という青年が立っていた。
ティナさんは“ティナ”としての人格を着々と作っています。けれど、ずっと葵さんの記憶は付きまとうんだと思います。それでもし苦しむ日が来たとしても、彼女はそれを罰として受け止めるでしょうね。




