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[二部九章]似ているだけ。

前回の続きです。もうちょっと続くんじゃよ。


全く。誰が来たのかと思ったら、よりにもよってこいつか。

葵がいろいろあげちゃった、神々が作ったとかいう新作?みたいなやつ。

名前は無かったはずだからなんて言えばいいのか分からないし、もとはと言えばこの新作ちゃんがいるせいでこの状況下にあると言っても過言じゃない。だけど、その新作ちゃんは最初に見た時とは何もかもが変わっていた。

“救済”と言いながら虐殺をしていた彼女の面影は、そこにはなかった。

とはいえ、葵のように上手い事面倒事を躱すことができているわけでもなかった。

だからか分らないけれど、身体が勝手に動いた。


『あのさ、もうちょっと上手くやってくんない?葵から色々貰ったんだからさ。』


そう言いながら、彼女の前に立ってスラムの住人に声をかける。


『んでさ、お前らも僕の目につくところで分かりやすいカツアゲとか止めてくれないかな。反吐が出る。殺すよ?これ以上踏み込むなら。』


そう言って殺気を少し放つだけで、失禁しながら気絶しかけて泡を吹くチンピラ共。

こんなに弱いんなら手を出すんじゃねぇよ、と言いたかったけれど、仕方ないだろう。だって、俺が異形だから殺気が人間にとって毒にさえなりうるわけで。

あぁもう、貧弱なのはこれだから困る。


「す、すみませんでした、殺さないで‥‥‥‥」


先までの態度が一変して懇願を始める掃き溜めの住人。


『お前ら。スラムの住人なら分かるだろ。やろうとして良いのはやられる覚悟がある奴だけだ。つまりその命乞いは相手の気を逆撫でるだけだ。』


地面に這いつくばるゴミを踏みつぶそうと足をあげると、服の裾を掴まれた。


『あ?』


振り返って先にいたのは、葵とそっくりの顔をした、でも葵じゃない少女だった。


「駄目。だめだよ。」


『はッ、何、お前がこいつらの事庇う理由でもあんの?』


「違う、その人たちはきっと悪い人かもしれない、けど、君がその人たちを殺してしまったらもう一人の私が‥‥‥‥葵が、悲しむから、駄目。」


‥‥‥‥‥‥‥‥‥黙ってそのゴミを見ると、必死に懇願するような視線を向けられる。

手を振ってどっか行けと指示を出すと、途端に逃げ出す掃き溜めのゴミ。昔の俺と同じ、社会から不要とされた存在達。


『‥‥‥‥‥お前が。葵から多くの物を受け取って存在することを許されただけのお前が、どうして俺のやることに口を出す。お前が、葵の何を知っているって言うんだよ!!』


そう吠えて、葵とよく似た違う少女の胸ぐらを掴む。

少女は咳き込むが、抵抗せずにこちらをじっと見つめる。


「教えてもらったこと、もらったもの、無駄にしたくない、あの子が、彼女が、一番近くにいて、一番大事にしてた君を、君が嫌いな君にしたくない‥‥‥‥‥ッ」


瞳に涙を浮かべながらも語る内容は、俺の事ばかりで。


『なんだよ、それ‥‥‥‥‥‥』


葵が、俺の事を大事にしている?そんなのは、


「あの子は、私と似ているだけだって言って、私に“ティナ”っていう名前をくれました、彼女から、葵からもらった記憶の中は、貴方の事でいっぱいでした。初めは、憎んでいた部分もあったと思います。その理由は分かりません。でも、でも‥‥‥‥‥‥!ずっと、言ってたんです、あの子は!貴方の事が、内亜が大事だって、大好きな存在だって!!」


ありえないと、言いたかった。

けれど、彼女の、ティナの目は真剣そのもので。


『は、はは‥‥‥‥‥何、何なんだよそれ、俺は憎まれ役でいいって‥‥‥‥』


ティナと名乗る少女の胸ぐらを掴んでいた手を離し、その場にしゃがみ込む。


「憎まれ役になりたかったんですか。違うでしょう‥‥‥‥?だって、記憶の中の君はいつだってあの子を助けていたから。だから、あの子だって嫌でも気が付いていたんです。貴方が、自分を大事にしているって事。だから、いつも何も言わなかったけれど、葵はずっとあなたに言いたかったって思ってた。“いつもありがとう、大好き。”って。」


ふわりと、似ているだけの香りとぬくもりが俺を包む。


「私は、彼女じゃないです。でも、彼女からもらった記憶は、思い出は、本物なんです。」


だから、と続けようとする言葉を、唇に手を当てて止めさせる。


『分かった。分かったから。‥‥‥‥‥‥‥悪かったと思ってるよ。胸倉掴んで。』


「いえ、それは‥‥‥‥‥仕方のない事です。だって、私がしでかしてしまったことに変わりはないんですから。」


『はいはいはいはい、じゃあお終い、お終い!全く、葵はここまで献身的じゃないから感覚が狂いそうになるよ、本当に。』


そう言って笑って見せる。

大丈夫だと、自分にも言い聞かせるように。


「‥‥‥‥‥嘘、思ったよりも下手糞ですね。記憶の中の貴方は嘘が上手に見えたのに。」


『だって、葵にはバレないようにしてたし‥‥‥‥‥』


「じゃあ、私が葵さんの偽物のティナだから分かることなんでしょうね。‥‥‥‥もう、嘘をつかなくってもいいはずです。苦しいなら、葵さんはちゃんと受け止めて解決しようとしてくれるはずですから。」


『‥‥‥‥‥‥‥ははは、皮肉かなぁ。‥‥‥‥‥でも、そうだね。いい加減に話さないといけない時が来たみたいだ。』


そう言って笑顔を作るけれど、分かっている。無理に作った笑顔だから、彼女には分かっちゃうんだろうな。


「はい。あの人は、ずっと待ってくれていると思います。貴方のこと、すごく大事に思っていますから‥‥‥‥‥今は、ですけどね。」


『それは昔からだったら‥‥‥‥‥いや、流石にそれは無理があるなぁ。ふふ、分かったよ。ティナ。』


そう言って思わず笑ってしまう。

さて、次に会った時、どう話そうか‥‥‥‥‥‥





内亜はまだ葵さんがどうなっているかは分かっていません。

時間的には、葵さんが図書館に居候を始めて、色々覚えている最中くらいですかね。

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